番外編④

 ヴァネッサの指に小さくキスを落とし、僕はティーテーブルの中央にちょこんと座っていた大きなクマのぬいぐるみを彼女の腕に抱かせた。


「———うん、やっぱり可愛い」


 赤い顔をしたヴァネッサが、可愛い焦茶色のテディーベアを抱っこしている光景は筆舌し難いほどに、最高であった。


「ヴァネッサ、僕と結婚を前提にお付き合いください」


 にっこりと笑って僕よりも高身長な彼女を上目遣いに見つめた僕は、次の瞬間、ちょっとだけ後悔した。


 クマのぬいぐるみで口元を隠し、眉を下げるようにして微笑んだ彼女が、あまりにも、あまりにも天使のように愛らしすぎたのだ。


(やばっ、理性壊れる………)


 恥ずかしがりながらも凛とし佇まい。

 普段男装騎士として生活している彼女ならではの中性的な美しさが、僕の興奮を掻き立てる。


「私は剣が好き」

「うん?」


 お返事がもらえるかなと思ったら、唐突なカミングアウトが始まった。


「私は剣を捨てるつもりはない」

「うん」

「それに、女らしく暮らす気もない」

「うん」

「私はたとえ王子である貴方と結婚したとしても、“私”を捨てない」

「うん」

「………あと、次のパーティーからは私が軍服で貴方がドレスがいい」

「………………うん」


 クマのぬいぐるみで顔を隠した最後の小さな声に、僕は一瞬頬を引き攣らせる。


(なんかとんでもないお約束を取り付けさせられた気が…………………、)


 一応確認のために口を開こうとした瞬間、クマのぬいぐるみの影から、藍色の瞳を潤ませた彼女の麗しい顔が覗いた。


「こんな突拍子もない私を、貴方はありのままで愛してくれるか?」


 妖艶で、蝶のような彼女に、僕は無敵に笑って見せる。


「僕はズボンよりもスカートが好きで、かっこいい軍服よりもレースがいっぱいのドレスが着たい。剣を持つのは大好きだけれど、無骨な剣よりもふわふわした日傘を持っている方が好き。うんと小さい頃は、馬車の模型で遊ぶことよりも、ぬいぐるみをぎゅっと抱っこしている方が好きだったし、お外で鬼ごっこをするよりも室内でおままごとをする方が好きだった。………こんな乙女チックな僕と、君は結婚してくれる?」

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