番外編④

 僕の質問に、彼女は一瞬きょとんとした可愛い顔をしたのちに、くふふっと笑った。


「私はね、可愛いドレスを見るのが大好きだけれど、着る分にはかっこいい軍服が好きなんだ。可愛いレースの傘も捨てがたいけれど、この武骨な手はずっとずっと剣を握っていたい。小さい頃は、空いている時間を見つけては兄さんたちと一緒に時間が許す限り剣のお稽古をしていたものだ。貴方はそんな女と結婚したいと願っているが構わないのか?」


 僕とは正反対の言葉。

 僕とは正反対の願い。


「僕は、君がいいんだ。君じゃなきゃ嫌なんだ」


 僕とヴァネッサはまるで元々が1つであったかのように、お互いを補い合うことができる。

 それに、僕は彼女の悲しみや苦しみを理解してあげられる。

 彼女は僕の悲しみや苦しみを理解してくれる。

 それが何よりも嬉しくて喜ばしくて、心から安堵できる。


「僕のお嫁さんになってくれる?」

「あぁ。任せておけ」


 彼女の力強い言葉と共に、僕は僕が手縫いした大きなテディーベアと共にヴァネッサに抱きしめられた。

 鼻腔をくすぐる優しい匂いにくらっとしたのは、僕だけの秘密だ。


 その日、僕はちゃんとヴァネッサと一緒に、父さまと母さまと兄さまとヴァネッサのご両親と兄君たちにこっ酷く叱られたのだが、それはまた別のお話である———。


▫︎◇▫︎


 昔々あるところに、ドレスが大好きな王子さまと、軍服は大好きなお姫さまがいました。


 2人はとある夜会で一目惚れし、王族でありながらその日のうちに婚約をするという伝説を残したのですが、2人の伝説はそこでは終わりませんでした。


 なんと、2人は普通ならば3年待って結婚式を挙げなければならないところを、たったの半年後に式を挙げてしまったのです。


 そしてもっと驚くべきことに、結婚式から数ヶ月後には初の王孫を設けました。


 兄や姉の結婚式を押し退け、真実の愛を貫き続けた破天荒な夫婦は、当時周囲からこう呼ばれていたらしい。


 ———逆転夫婦、と。

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