番外編④

▫︎◇▫︎


 王宮に次々と馬車が乗り入れられるのを遠目に見つめながら、いつもとは違い白地に金色の縁が入ったスーツに身を包んだ僕は、憂いを帯びたため息を溢した。

 後ろで三つ編みにした金髪を弄んでいると、普段とは全く異なる衣装を身につけていることを意識させられる。

 サファイアでできたクラヴァットの留め具を指で撫でていた僕は、視界の端で漆黒の髪を持つ美女が馬車を降りたことを見逃さなかった。侍従に彼女を応接室に連れてくるように命じ、僕は不安いっぱいのまま、応接室へと向かう。


 ———コンコンコン、


 几帳面さの窺える規則正しいノックの音に、僕の背筋はグッと伸びた。


「どうぞ」

「失礼致します」


 扉に奥から現れた美女に、僕はゴクっと唾を飲み込んだ。


 彼女は今、僕の送ったドレスを身につけている。


 藤色ドレスはスカート部分が全てチュールになっており、チュール部分には金糸で小花が繊細でいて大胆に刺繍されており、胸元には絹で作った大輪の花がブーケのように咲き誇っている。

 まるで花の精霊のようになっている彼女は、僕を見た瞬間、大きく目を見開いた。


 絹の花の中に隠したプラチナスピネルがきらりと輝くのに自尊心?のようなものが満たされるのを感じながら、僕はその醜い感情に苦笑する。


「………お久しぶりです、ヴァネッサ」


 王家の紋章のついたマントを羽織っている僕に、彼女は呆けていた、

 無理もないだろう。

 というか、もし僕がされた側なら、ブチギレて回れ右してしまう自信がある。


「………………」


 特に何も口にせず、何度も何度も口を開いては閉じてをしている彼女に、僕はゆったりと紳士の礼をとる。


「改めまして、第2王子シリル・フォン・マルゴットです。では、来ていただいて早々で悪いのですが、少しお付き合いいただきますね」


 僕はそう言うと、東屋のある庭園につながっている扉を開け、先に進む。

 後ろから彼女が歩いてくる気配を確認しながら、僕はゆっくりと東屋に向かった。

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