番外編④

▫︎◇▫︎


「シーリルー。お出かけしよっ!!」

「えー、姉さま、昨日もお出かけで怒られたばっかりじゃん」


 留学から帰宅してすぐの頃から、誰よりも元気で化粧映えをするお顔を持っている姉さまが僕にベッタリになった。

 ブラコン全開の姉さまには、僕の留学がとっても寂しかったのかもしれない。


「んー、じゃあマニキュア買って挙げるから、一緒に出掛けてくれない?」


 チラチラと後ろにいる護衛のジルに視線を向けていることと、カレンダーに記されている側仕えの誕生日の日付から考え、僕は姉さまの目的に気がついた。


(ジルの誕生日プレゼントか………。僕よりも兄さまを連れて行った方がいいだろうに)


 でも、姉さまにかまってもらえて嬉しい僕は、絶対にそんなこと言わない。

 思っていても口にしない。


 可愛いドレスと美しいメイクの下に本心を隠す。

 ドレスとメイクは僕の鎧で、可憐な笑みと日傘は僕の武器。


 姉さまに連れられて街に向かった僕は、予想通り姉さまにジルへの誕生日プレゼントのアドバイスをあげながら、握りしめていた不穏な呪符を棚に戻させていた。

 「絶対これが良さそうなのに」なんて不穏なことを言っている姉さまを半分というか9割型無視しながら、僕は店の中から外をぼーっと見つめる。


 視界の端、首の下で一つに括られた漆黒のストレートヘアが、サラリと風に乗って空を舞っていた。

 一瞬絡まる視線は引き込まれるようなサファイア。

 麗人という言葉が最も似合いそうな軍服の美青年に、僕の心臓はとくんという切ない音色を奏でる。


 ———あ、待って………!!


 ガラス越しに自然と伸ばしてしまった手、踏み込んでしまった足。


 僕はどうやら、“一目惚れ”というものをしてしまったようだ。

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