番外編④

▫︎◇▫︎


 ———僕、シリル・フォン・マルゴットはいつもどこか“変”だった。


 物心つく前からズボンよりもスカートが好きで、かっこいい軍服よりもレースがいっぱいのドレスが着たかった。


 剣を持つのは大好きだけれど、無骨な剣よりもふわふわした日傘を持ちたかった。


 馬車の模型で遊ぶことよりも、ぬいぐるみをぎゅっと抱っこしている方が好きだったし、お外で鬼ごっこをするよりも室内でおままごとをする方が好きだった。


 ある時、授業の中で僕は自分が心と身体の性別が違うってことに気がついた。


 そこからは諦めることの方が早かったし、父さまと母さまが受け入れてくれたから、あっという間に僕は半分だけ女の子として過ごすことになった。


 僕は不思議な人間だと思う。


 お洋服とか遊びとか持つものとかは女の子っぽいものが好きなのに、好きな人は女の人だし、困っている女性がいたり泣いている女性がいたら護りたくなる。

 そういうところはなんだかんだ言って男の子っぽかったし、僕は戦うことが好きだから、そこも多分男の子っぽい。


 僕たち兄弟はみんな変わっている。


 姉さまはいつも勝気で元気いっぱいで、お姫様なのにとっても喧嘩っぱやくて、社交界の女帝と呼ばれている。


 兄さまは母さまに似てストレスに弱くて、いっつもエチケットの『エ』の字もないぐらいにゲロゲロ吐いている。


 父さまと母さまはそんなはちゃめちゃな僕たちを子供に持ったせいで、いっつも大変そうだ。


 特に、一昨年僕に惚れちゃった留学先の馬鹿太子に、長年連れ添っていた公爵令嬢と婚約破棄騒動を起こさせてしまった件については、本当に申し訳なく思っている。


 でも、あんな浮気最低ヤローに、あんな気高く美しいご令嬢が、心を殺してまで支えなければならない意味が分からなかったんだ。


 まあでも、僕はあの結果に満足している。

 それに、思っていたよりもしっかりと成果が出たから、彼女は無事に初恋相手であった馬鹿太子の2つ下の弟にして、現王太子の第2王子と婚約することができた。


 僕の可憐さが1人の少女と未来、馬鹿太子によって翼をもがれてしまう美しき鳥たちを救えたのだと思ったら、なんだかとっても気分が良かった。


 ———可愛い自分が好き。


 ———自由に振る舞っている自分が好き。


 僕はずっとずっと自分勝手だ。

 姉さまも自分勝手だけれど、僕はもっともっと自分勝手。


 僕は、僕が可愛くて大好きで、そして———悍ましい………………。

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