番外編③

▫︎◇▫︎


 あたし、アリエル・フォン・マルゴットは、メッテルリヒ王国の第1王女兼、次期国王たる第1王子エイベル・フォン・マルゴットの双子の姉として生を受けた。


 お父さま譲りの黒に近い焦茶色の猫っ毛に、お母様譲りの灰色の瞳を持つ、能力的には完全無欠を誇るあたしには、最近、よっても大きな問題を抱えていた。


 そう。

 あたしは地味なのだ。


 お母さまみたいな高潔な美しさも、お父さまみたいな柔和な美しさも、双子の弟であるエイベルみたいな冷たい美貌も、4つ年下の今年16歳になるシリルのような可憐さもない。


 控えめに言って地味。

 大袈裟に言ってごくごく普通の一般人以下。


 平民の格好してお外に出ればただの町娘になれるし、騎士の格好をすれば騎士になれる。


「………はぁー、何であたしだけ………………、」


 美しいお顔のお母さま、麗しいお顔のお父さま。


 あたしはいつも言われる。

 『何であの両親にしてこの子供なのか』と。


 あたしだって好き好んでこんな甲乙つけ難い微妙な容姿に生まれたわけじゃないし、それどころかシリルみたいな守りたいと思わせるような可憐さが欲しかった。

 でも、持って生まれなかったのだから仕方がない。


「おえぇー、」


 ドレスの下に仕込んでいる暗器を真っ白なクロスでピカピカに磨き上げながら、あたしは小さく溜め息をついた。


「せっかく人が感傷に浸っているのだから、こんな時ぐらい外で吐いてよね。臭いったらありゃしないわ」


 鼻元を手でしっしとしていると、双子の弟であり第1王子のエイベルが額に浮かんでいる青筋をピクピクとさせた。

 コレを無表情でやるのだから、本当に器用な弟だ。

 そして、そんなところが可愛い。


 そんでもって、………黄金の美しい瞳が、白銀の輝く髪が、お父さま譲りの柔和な美貌が羨ましい。妬ましい。


「ここ、俺の部屋なんだけど」

「あっそ。でも、ここはあたしのお家だわ」


 足を組んでにこっと笑ったあたしに、エイベルは頭が痛いと言わんばかりに力なく額を押さえた。


「出て行け」


 地を這うような声だけれど、あたしには全く怖くない。

 何故ならあたしの方が強いから。

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