番外編②

 黒に近い焦茶色の猫っ毛に手を伸ばして、ぴょこぴょことしたハネを抑えるようにゆっくりとノエルの頭を撫でながら、私は心の中でほくそ笑んでいた。


(これならノエルだって嫌がるはず………!!)


 上手に書類が捲れなくなるように場所を調節して絶妙な塩梅で座っている私に、ノエルは苦笑していた。


「今日のシェリーはものすごく積極的だね」

「っ、」


 妖艶な微笑みを浮かべてどろどろとお砂糖をこぼし始めたノエルに、私はぴくっと固まった。


(あ、コレやばいやつだわ………、)


 私とノエルはなんだかんだ言ったとしても7年来の付き合いになる。


 よって、私は自信満々に「ノエルについてはなんでも知っている」と言うことができるくらいにはノエルと深い関係にある


 だからこそシェリルは悟った。

 コレは逃げられなくなってしまうパターンだと。


 だが、気づいてしまった時には時すでに遅し。

 立ちあがろうとした私の身体は武術の心得があるノエルによって、ガッチリとホールドされ、全く動けなくなってしまっていた。


「ほらほら、立ったらダメでしょう?今日1日、僕は天使の羽のように軽い、すぐにでも飛んでいってしまいそうなくらいに儚い大大大好きなシェリーを、ずーっと抱っこしたまま動き、愛しのシェリーの可愛い可愛いわがままを聞き続けなければいけないのだから」


 にっこりと笑いながら恋愛小説でも出てこないくらいに甘々の言葉を吐くノエルに、私のほっぺたは意味がわからないくらいに熱くなっていく。

 胃がキリキリしてきて、胸がどくどくと激しい鐘を鳴らす。


「ほら、命じてシェリー。俺が君の従者をしていた頃のように、君のオネガイを俺に聞かせて」


 切実な黄金の瞳に魅入ってしまった真っ赤な顔の私は、彼のくちびるが耳元に寄せられるのを呆然と見つめていた。


「俺の、俺だけの、愛おしいシェリルお嬢さま」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る