番外編②
▫︎◇▫︎
私、シェリル・フォン・マルゴットの胃が大荒れする大事件、してもいない婚約が身勝手に破棄され、私が唐突に王妃にならなければならなくなったあの地獄のような、否、正に地獄の日からちょうど半年という月日が流れた。
やっとのことで、そう、本当の本当に一生懸命働いた末に、やっと表に出てしなくてはならない粗方の事務処理が終了し、王宮の奥深くに潜ることが可能になった私は、今までの胃痛を全て癒すと言わんばかりに、執務室の椅子の上でぎゅうぅーっとノエルに抱きついていた。
細身のように見えて実はしっかりと鍛え上げられているノエルの身体は、今日も包容力抜群で、私の繊細な心とボロボロの胃を癒してくれる。
絶対的に安全な場所で、私は頬を緩めた。
すりすりと擦り寄ると、頭上から彼の困ったような笑い声が聞こえた。
「あれま、俺の可愛い可愛いシェリーは甘えた期かな?」
いつもと反対の構図に顔を赤くして私の頭を撫でている彼を見上げながら、私は仕方のない旦那さまのほっぺたをむにーっと引っ張った。
端正で繊細な、お日さまみたいにキラキラしたお顔は、私の悪戯によってむにーっと引っ張られても、その輝きが減少することがない。
「………なんでこんなに綺麗なのかしら。世の中って不条理だわ」
「しぇ、シェリー?」
ものすごく困惑した顔をしている撮っておきの美青年にして、私の元従者で、現国王たるノエルの、黄金の瞳をじとっと睨む。
「ノエルのわがまま………、というか、勝手な行動のせいで、いつのまにか勝手に王妃にされちゃうし、昨日も一昨日も、その前も、その前も、ずっとずっとたくさんの人とお話ししないといけなかったし、胃が痛くて喉がいてくて仕方ないのに、お仕事はじゃんじゃか舞い込んでくるし、これはノエルへの罰」
ノエルのくちびるに人差し指を当てた私は、ママ直伝の麗しい笑みを浮かべる。
「今日1日、とーっても重たい私を、ずーっと抱っこしたまま動き、私の言うことを聞き続けなさい」
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