第17話

 少し意地悪な笑みすらも格好いいノエルにぽわーっとした私に、ノエルは「ん?」と首を傾げた後、ぱっと耳から手を離した。


「どーした、シェリー」

「ん、んーん」


 なんでもないと首を振った私に、ノエルは鼻頭へのキスを送る。


「えっと………、ノエル?パパとのやらかしはどうなりそうなの?」


 盗聴に失敗してしまったらしいために周囲の状況がイマイチ掴めていない私は、ふるふると青い顔で震えている国王夫妻や周囲に向けて首を傾げた。


「俺が俺を捨てた人間に向けて、にっこり笑って尻尾振ると思う?」

「………お、思わない」

「つまり?」

「………………断った」

「正解」


 よしよしと頭を撫でられるけれど全くもって嬉しくない。


「えぇっと………、」


 どうしようかと周囲を見回した私は、けれど失禁してしまいそうなぐらいに怯えまくっている周囲に苦笑いした。


「ノエル、まずはそのゾッとするぐらいに恐ろしい殺気をしまわない?」

「なんで俺のシェリーを傷つけようとした挙句、俺からシェリーを盗ろうとする人間に温情をかけないといけないわけ?」

「………………」


 国王さまに涙目を向けられた私はゆっくりと首を横に振ってにっこり笑った。


(無理無理、止められるわけ無い。というか、………なんで私からノエルを盗ろうとする人間のために努力しないといけないの?………うううぅぅぅ、胃が、痛い………………、)


 あまりにも痛い胃に、私はさすさすとお腹をさする。


「で?最終決定は?」

「………っ、マルゴット家を新たな王家と決定する」


 ………………?


「今宵この瞬間を以て、初代国王の嫡男の血筋を引くマルゴット公爵家を新たな王家とする」


 広間に流れる長い長い沈黙。


「———は?」


 最初に響いたのは私の呆然とこぼされた声。

 その次に響いたのはパーティー会場内にいる人間たちの呆然とした声。


 そして———、


「ふーん、譲っちゃうんだ。ま、いいけど」


 ノエルのどうでも良さそうな声。


「ま、じゃあ、俺の奥さんの実家が新しい王家ってことで、俺が王さま、シェリーが王妃さまってことでいいのか?」

「………あぁ」


 ………………つまり、


「私、逃げ遅れた………?」

「ふふっ、どうだろうね」


 穏やかに、たおやかに微笑んだノエルの笑みが答えだった。


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