第18話
「じゃあ、改めてお願いするよ」
王家のみが身につけることを許されている魔力を付与することのできる魔金と、この世界で最も貴重とされる同じく魔力を付与することのできる魔白金が、絡み合う蔦のようにデザインされた2つのリングの納まっている小さな箱を手に、ノエルが跪く。
その指輪に視線を奪われた私は、ぽろっと涙をこぼした。
今この瞬間だけは、いつも地獄のように味わっている胃痛すらも感じない。
そのぐらい、私は彼の用意した結婚指輪に目を奪われていた。
2つの揃いの指輪には、小さなハート型にカットされたグリーンダイヤモンドが4つ中心にあるイエローダイヤモンドに尖った部分を向けるような形の飾りがついている。
あの日彼がくれた指輪と同じ、幸せを運ぶ四つ葉の指輪。
「シェリー、ううん、シェリル・ラ・マルゴット公爵令嬢」
普段はグルグルの瓶底眼鏡で隠れていた黄金の瞳を真っ直ぐと向けられた私は、精一杯微笑む。
「俺、ノエル・ルーティと結婚していただけますか?」
一瞬だけ悩んだ。
でも、私はどうしても彼の隣にいたい。
高嶺の花である彼の隣を手放したくない。
「はい」
次の瞬間、私の視界が回っていた。彼の腕にお尻を乗っける形で抱き上げられ、グルングルンと彼が喜びで回ってしまったからだ。
「ヨッシャー!!ラストスチルゲットー!!」
ヒドインのチェルシー、おそらく前世の悪友兼親友の図太い声聞きながら、私は彼によって回される視界の中、周囲をぐるっと見回す。
嬉しさに笑っている者、怒りに震えている者、哀しさに泣く者、歴史上でも稀な愉快な出来事を楽しむ者………、様々な表情の人がいて、様々な表情を私に向けている。
魂が抜けるようにして意気消沈している、先王さまと元王太子アルゴノートさまのそっくり具合は面白し、王妃さまがこれ見よがしに先王さまのお顔に落書きしている様や、おそらく前世は顔面偏差値至上主義者のチェルシーが、「ゲーム外スチルも最ッ高ッ!!」と言いながら、アルゴノートさまの背骨が悲鳴をあげてしまうぐらいに彼のことを強く抱きしめている様も見ていて楽しい。
けれどそれとこれとは話が別。
私は王妃となろうとも強くなんてなれない。今この瞬間も、多くの人に視線が向けられていると意識するとゾッとしてしまうし、胃が痛くなってしまう。
けれど私は、今、この瞬間がとっても幸せ。
「大好きだよ、ノエル」
ちゅっと初めて彼に求められるでもなく彼の額にキスをとした。
ぼふんと真っ赤に染まった彼の耳や顔がとっても可愛い。
「………今の反則」
赤い顔のままで僅かに不服そうな顔をした彼は、噛み付くように私のくちびるを奪う。
この幸せが、間違いで起こった婚約破棄によって嵐に包まれて得たこの幸せが、何事もなく、平穏に、そして永遠に続きますように。
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