第16話

 現実逃避に入りかけた、否、ちょこーっとだけ現実逃避に入っていた私は、何事もなかったかのようにノエルの肩に額をすり寄せた。


(全くもって現実逃避から抜け出せていない気がする)


 ちゅっちゅと落とされるくすぐったいキスに幸せな気分になっていた私は、耳が塞がれそうになっていることに気がつき、ひっそりと丁寧に魔法を展開させた。


《盗聴》


 魔法など諸々に敏感なノエルにすらも気取らせないぐらいに隠密に魔法を扱える私にとって、この場で魔法を使って周囲の音を盗むことなど造作もない。

 ノエルに抱きしめられて視界を奪われたままの私は、目を瞑って周囲の音に集中した。


「で?どうすんの?俺からシェリル取るっていうのは絶対許さないし、もしそうする気があるんなら、この場にいる全員をぶっ殺して、義父上と義母上を連れて国外に逃亡する。知っての通りシェリルは身体が弱いから王妃としての公務をこなすことは不可能だし、俺自身はシェリル以外を娶る気はない。もし娶ることになるんだったら、その女は間違いなく娶ったその日のうちの俺によるストレス発散のための拷問の末にドブに捨てられるね」


 にっこりと笑っているノエルのことを見上げたら、彼は幸せそうに微笑んでから私の額に優しくキスを落とした。


(盗聴魔法失敗したのかな………?)


 のほほんとそんなことを考えながら、私は彼にされるがまま姫抱きにされても文句を言わずただただ彼が好きになように撫でられる。


「俺にとってシェリルは世界の全てであり、シェリルそのものが俺の世界だ。シェリルがいない世界に意味はないし、シェリルが不幸になる世界にも意味はない。そんな世界なら俺がこの手でぶっ壊してシェリルが幸せなものだけに囲まれていられるような世界を作る」


 なんだかヤンデレチックな言葉が聞こえてる気がするけど、彼の頭を撫でる手は穏やかだし、絶対こんなこと言っていない。魔法が誤作動している………だけなはず。


「俺には実際それだけの力と能力がある」


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