第9話

 しみじみと振り返っているうちにアルゴノートさまの荒唐無稽な彼曰く、『可憐な弁論』が進められて行く。


「———ということで、僕の愛おしいシェリルをいじめた罪で、シェリルを国外追放にするッ!!」

「ねぇ、ノエル。ついには愛おしい人のお名前を間違えたわよ」

「救いようがない馬鹿から、救いようのない阿保に進化したな」

「そうね………。この国の未来が危ぶまれるわ。というか、ここでこれだけやらかしてしまうと、もう彼は見限られてしまったも同然なのかしら」

「………………、」


 こしょこしょと耳元で囁き合うと、耳を彼の美声がくすぐりとてもくすぐったい。

 心がぽかぽかとしてきて大分吐き気も治ってきた。


「あの阿保殿下どうするんだ?王家から責任を取れと言われかねないぞ?」

「これでも『筆頭公爵家のひとり娘』兼『世界1のトップデザイナー』。異国に逃げても食いっぱぐれないはずよ」


 公爵家の姫ながらに逃げる宣言をした私を、ノエルはくすくすと笑う。


「むむっ!僕の悪口を言っているような気がするぞ!!貴様!不敬だ!!さっさと首を落とせ!!」

「………………」


 ビシッとアルゴノートさまが指差す先にいるのはノエル。


「阿保は地獄耳だと聞いたことがあったが、本当だったんだな」

「呑気なことを言っている場合ではないと思うのだけれど………、」

「ほら重曹!!さっさとボサボサメガネ!をぶっ殺せ!!」


 ………同い年っぽいのに頭の毛が寂しくなってしまっている可哀想な従者さん、アルゴノートさま曰く重曹さんがよろよろと近づいてきて、ズサァーっと見事なスライディング土下座を披露した。


「助けてください!!これ以上頭の毛とバイバイしたくありませんっ!!」


 現在進行形でお別れを告げていそうなくらいのストレスに苛まれているであろう従者さんの切実すぎる言葉に、私は困り果てた。


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