第8話

「えぇーっと、なんだっけ………。あ、そうそう。ここまで読んだんだった。僕の愛しのチェルシーの教科書を破って飲み込んだり、階段からチェルシーを突き落とそうとしてしたり、ドレスを破こうとハサミで指を切り落としたり………、ん?なんか文章がおかしくないか?」


 アルゴノートさまの言葉を聞きながら、私は呆れた顔をしてしまう。


「ねえ、ノエル。私の感覚が間違っていなかったら、アルゴノートさまはもう5分以上あのカンペを読み続けていなかったかしら?」

「………読んでたな」

「ねえ、私の商売道具、無事よね?」


 目元にキスを落とされながら頷かれ、私はげんなりとしてしまった。


「なんであんなに酷い文章なのに、平然としていられるのかな」

「バカだからだろう」


 ばっさりと切り捨てたノエルにほっぺたにキスを落とされながら、私は頬を赤くして頷く。


「そう、かもしれないわね」

「いや、絶対そうでしょ」


 私が曖昧に頷いた言葉にガッツリ大きく頷いたチェルシー。


(うん。あなたは逆ハーエンドをクリアした、モテモテヒロインじゃなかったの?ヒロイン、それでいいの?というか、ヒドイン?)


 ぷっくりと愛らしいくちびるから紡がれる毒舌に苦笑した私は、ぐしゃぐしゃに握りつぶしたカンペを上に放り投げ、それが頭に直撃し、怒り狂って地団駄を踏み始めたアルゴノートさまを見つめる。


「えぇい!こうなれば僕の可憐な弁論で続きを話してやる!!」

「………華麗な弁舌じゃないのか?」


 ノエルがいい加減に呆れたようにぼそっと呟くのを感じながら、私はノエルにされるがままにお姫さま抱っこをしてもらう。

 剣術や武術にも秀でているノエルは夜や休み時間にひっそりと鍛えているために、細身の筋肉質で抱き上げられていても一切の不安がない。


(初めてキスされた時はあまりの恥ずかしさに気絶しちゃったし、初めて抱っこされた時はあまりの有り得なさに魂が抜けちゃったのに、今は人前でされても平気なのだから慣れって怖いわよね………、)


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