第4話

(過労死かぁ………、)


 王家とのご挨拶の際に胃に穴が空いて死にかけた、若干6歳の少女シェリルに、世間擦れしていない20歳の小鞠の意識が完璧に思い出されたとしても、周囲はそこまで気にしなかったし、気づかなかった。

 元からシェリルと小鞠の性質がよく似ていたというのもあるかもしれない。


 すぐに吐く。

 すぐに倒れる。

 すぐに逃げる。


 人付き合いフルボッコ且つストレス耐性マイナスなのは、小鞠だけではなかった。

 故に、王家挨拶後にちょぉっと引きこもりが悪化したとしても、パパもママも侍女たちも何も文句を言わなかった。


 それどころか、お部屋の中でできる暇つぶしとしてお勉強やハンドメイドをすると、


「あぁ!赤子の頃からすぐに胃に穴をあけて吐いていたシェリが、こんなにも立派になるとは!!シェリ、他に欲しい御本はあるかい?それとも、新しい糸が欲しいかい?」


 パパが感動のあまりギャン泣きしながら頬擦りしてきた。

 そして、頼んでもいないのに明らかに最高級品のハンドメイドの材料や、宝石と金箔がふんだんに使われた本が送られてきた。


「あらあらぁ、そんなに詰め寄ったら可哀想よ〜、旦那さま。シェリちゃん、ママはシェリの作ったレースが好きだわ〜。今度髪飾りを作ってちょうだいな〜」


 ママは淑女として失格の私を叱るでも、私に呆れるでもなく、私の長所を生かした社交を進めてくれた。


 ———それはデザイナーとして活躍する道。


 ママが私の作ったものの図案や作り方等を回収し、私名義で作ってくれたお洋服屋さんで従業員に作らせて販売するのだ。

 ママは自分から広告塔になって、私の無能具合をいい感じにカバーしてくれた。


 ママが作った私のブランドは、先進的な発想と着心地の良さによって爆発的にバズった。


 えげつないほどにくるオファーは母の目によって厳選され、私のブランド『コマリ』はあっという間にハイブランドに昇華された。


 私は優しいパパとママに恵まれて、とても幸せな生活を送ることができた。


 それから私は、何年も何年も引きこもり生活を満喫した。


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