第3話

▫︎◇▫︎


 前世の私、檜木ひのき小鞠こまりは胃がとても弱かった。


 ほんの些細なことでストレスを感じては、何度も何度も吐き戻していた。

 そんな私が両親から疎まれるようなるというのは当然の流れであり、自然の摂理であり、前世の私は中学校を卒業した瞬間にマンションの一室を買い与えられ、一人暮らしを始めることになった。


 そこから私は、通信制の家から通える高校に進学し、趣味である読書とハンドメイドに時間を割き続けた。


 様々な知識を全く使わないとはいえ頭の中に叩き込むのは楽しかったし、ハンドメイドはチクチクと無言でどんどん作業を進めていくのが性に合っていたのか、1ヶ月余りでハンドメイド専門のWebサイトにて、あっという間に売れっ子作家となった。


 親に頼り切っていたマンション費用や食費、光熱費、水道費等々も自分で払えるようになったのは多分、一人暮らしを始めて半年が経った頃だったと思う。


 けれど、その頃大きな問題に私はぶち当たった。


(ひ、人手が足りない………!!)


 いつの間にか有り得ないほど人気になっていた私は、何も深く考えることなくオーダーメイド等々を際限なく受け持っていたために、すぐにキャパオーバーを起こしてしまった。


 ネット上に送られてくるたくさんの温かなメッセージに半分依存気味だった私は、どうしてもお客さんの信頼と期待に応えたかった。


 だからこそ、私は2人の女性を雇って事業を拡大しようとしたが、………………。


(ムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリムリ………!!)


 控えめに言って、人が自分のテリトリーに入ってくること自体がムリだった。

 一瞬で胃に穴が空いて病院に搬送される羽目になった私は、その日以来、1人でチクチクチクチクと寝る間を惜しんで作業し続けた。


 カップ麺にカップ麺にコンビニおにぎりにカップ麺の生活を続けた私は、毎日4時間睡眠で作業し続けた。


 作業し続けて、作業し続けて、その末に死んでしまった。


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