第2話

▫︎◇▫︎


 青い空、白亜のお城、美しい薔薇園。


 ———そして、


「おえええぇぇぇぇ、」


 お口からキラキラと虹を吐く私、シェリル・ラ・マルゴット、6歳。

 マルゴット公爵家のひとり娘にして、パパとママからの深い深い愛情をどっぷりと受けて育ってきた箱というよりも要塞に詰め込まれた弱虫娘。


「「シェリル!!」」「「シェリル嬢!?」」

「だから言ったじゃないか!シェリルには無理だと!!国王陛下!見たでしょう?シェリル病弱さをっ!!王太子妃、ひいては王妃などこの娘には務まりません!!」

「いや、は?えぇ?これだけで吐いちゃうの?」

「シェリルは繊細なのですよ〜」

「こ、これは、繊細なんかで済まされないレベルよ、夫人。この娘、本当に大丈夫?」

「大丈夫ですよ〜。シェリちゃーん、お口拭くわよ〜」


 ぐるぐると回る視界に負けず、何やら揉めているパパとママと国王さまと王妃さまに一生懸命ににっこりと笑う私は、けれど次の瞬間ふっと思い出した。


(あれ?私、———転生してない?)


 コミュ症引きこもりを究極に極め、ハンドメイドで家から1歩も出ることなく生計を立てていた前世を、何故かこの不可思議なタイミング且つ、別段びっくりすることもなく思い出した私は、ちょっとだけ寂しく思いながらも、あの自堕落を体現したかのような生活で5年も生きた前世の自分を逆に褒め称えたくなった。


(うん、まあ、死んで当たり前だよねぇ………)


 ゲロゲロとお口から虹を吐き出す私は、目の前の席で絶句して固まっている未来の婚約者にして王太子アルゴノート・フォン・メッテルリヒさまににっこりと笑いかける。


 次の瞬間、王太子さまは泡を吹いて倒れてしまった。


(あれま。王子さまには刺激が強かったかしら?)


 ゲロゲロと吐く虹に赤いものが混じったあたりで、私はふらっと意識を手放す。


(今日は5分も吐かなかったわ。ものすっごく大進歩)


 大好きなママの胸に倒れ込みながら、私は享年20歳の前世をぷかりぷかりと夢見るのだった。


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