ある夜の話

秋祭りももうすぐ終わり。締め括りとなる花火大会は、三夜連続で行われる。

昨夜の花火大会はとても楽しかった。

エマちゃんが声を掛けて、沢山のドールが集まった。

次々と打ち上がる花火の下で、浴衣、制服、寝巻き、装いは様々に、笑顔が咲いていて。

日中も思い出しては頬が緩む。

そういえば、いつも夜になるといつのまにか何処かに帰ってしまって寮には居ない、ガーデンの一般生徒達も、花火を見ることは出来たのだろうか?

ふと気になってセンセーに聞いてみたら、一般生徒たちも何処かで花火を見ているかもしれないそうだ。

よかった。秋祭りの始まりの頃に花火玉が消えてしまって、もしそのまま花火玉が見付からず花火大会が中止されたら、一般生徒達も残念に思うだろうと聞いていたから。………私が急に透明になったのを見てしまって不安を抱いたという、私に罰則ポイントが付く切っ掛けになった一般生徒の誰かさんも、何処かで花火を楽しめただろうか?実はあれ以来ずっと、少しの申し訳なさを感じている。


誰も私の事なんて気にしないと思っていたのに。

案外、私は人の目の中で生活していたのだ。


無事花火大会が行われたことが、罪滅ぼしになってくれればいいのだけれど。


………そうだ、花火玉捜索には私以外の生徒も参加していた。誰が何処を捜したのかは、報告書を見れば分かる。


ふむふむ。屋上は私とヒマノ先輩、職員室はロベルトくん、リブルくん、ヤユさん。空き教室はエマちゃん、メロディアさん、イヌイさんに、リリーちゃんか。

───よし!今夜は花火玉捜索をした生徒で集まって花火を見るというのはどうだろう?


早速、花火大会の開催に向けて尽力した生徒達へと声を掛けるため、ガーデンを東奔西走した。

期限は今日の夜、花火が打ち上がるまで。

果たして、どれだけ集まってくれるだろう?




同じ期生のエマちゃんには、授業後直ぐに声を掛けることができた。

いつも通りちょっとツンツンしていたけれど、来てくれるそうだ。でもなんとなく満更でもなかったんじゃないかな?という気がする。

秋祭りに向けた色んな準備を一緒にしたり、同じ2期生の仲間で遊びに行きたいねって話をしたりするうちに、すっかり仲良しになれた!と、思っているのが私だけじゃないといいな、と思う。


ヒマノ先輩も直ぐに見付かった。校舎の掲示板コーナーに、大きな脚立を使って、古ぼけたエアロスラスター部の特大ポスターを剥がし、その跡に新たにシンデレラフィットする特大の部員募集中ポスターを貼っているところだった。「浮遊魔法を使えたら速いんだけどね~、今は昼間だから」とのこと。確かにヒマノ先輩は浮遊魔法がとても上手だ。屋上で一緒に花火玉捜索をした時にもチラッと浮遊魔法を使う姿を見たし、その後秋祭り期間中に先輩の部活仲間となった“部員0号”こと大きなテディベアは、グラウンドでヒマノ先輩の浮遊魔法によりまるで生きているかのように、ええと…エアロスラスター?だったか、地を駆け宙を舞い空間を立体的に使う感じの私のよく知らないスポーツをしている。部員募集中…かぁ…まぁ後でちょっと考えることとして、さておき今夜一緒に花火を見ませんかと誘ったら、のんびりした様子で快諾してくれた。


そこへ通り掛かったドールが、ヒマノ先輩のポスターに足を止めた。風紀委員のリブルくんだ。


「部員募集中…ですか。バグちゃんポイントが貰えるなら、考えてもいいですよ」

「それは…ただのバイトですねえ…?」

「大会の時とか必要でしょう?うちのテディベア貸しましょうか?」

「クマの手は足りてますよ~」


どうやらリブルくんも、秋祭りの射的でテディベアを獲得したらしい。いいなぁ、私もテディベアを狙ってみたけど当てられなかったし、だというのにキャンディ缶を狙ってセンセーに当てた。二度。ちなみにヒマノ先輩のテディベア“部員0号”が一発で仕留められたのは、私がセンセーを二度撃った直後のことである。解せない。


「ええと!リブルくんも花火玉捜索してたよね?今夜の花火大会、花火玉捜索に参加した生徒で集まって見られたらと思うんだけど、どうかな?」

「いいですよ」

「よーし!」


良い調子。まだ声を掛けていないグリーンクラスのメロディアさんとイヌイさんはヒマノ先輩に、ブルークラスのヤユさんとリリーちゃんはリブルくんに誘ってもらうことにした。


これであとは、寮で隣室のロベルトくんだけ!

休み時間毎に捜したけれど、そんな時に限って丁度よく通りかからなかったりするもので。

結局日中の授業を全て終えて寮に帰ってから、浴衣に着替えて部屋を訪ねると、「はーい」と中から声がした。何故か扉を開けてくれなかったので、扉越しに花火大会に誘ってみると、いつもと変わらない声音で了承してくれた。多分、後で会えるだろう。…なんとなく少しモヤっとする。いつもと変わらない、…本当に?


『知らない方がいい事もある』


頭の中で声がしたから、今はそれに従った。



そうして迎えた、花火大会第二夜。

真っ先に来て、皆を待つ。


エマちゃんが来てくれた。

にっこりする。嬉しいなあ。今夜は橙色の彼女が上手く私に溶け込んでいるのかもしれない。ほわほわして飛び付くと、エマちゃんはちょっとツンツンしていたけれど、振りほどいたりはしなかった。


次に来たのはメロディアさん。

通りかかったというメロディアさんに、花火大会に誘う言伝をヒマノ先輩から聞いていないかと聞くと、ここへ来たのは偶然だと言う。

…おっと?


そこへのんびり歩いて来たのはヒマノ先輩。軽く伝言について聞いてみたところ、「いや~、忘れてました~」とのことである。なるほど。伝言を頼むのではなくてやっぱり自分で声を掛けに行くべきだったろうか……。ヒマノ先輩の制服には、部活の練習から直接来てくれたのか少し砂が付着している。そういうところがにくめないなあと思う。


そしてリブルくんとリリーちゃんが寮の方から歩いてきた。流石というべきか、リブルくんは伝言をきっちり伝えてくれたらしい。と、思いきや。


「すみません…ヤユちゃんは見付けられなくて。伝言、伝えられませんでした」

「そっかあ………どうしようねえ。」


「呼んだー?」


ふわっとした声がする。声の主を探すと、木の上にヤユさんその人が居た。


「そんな所に…」

「ん?…ずーっと居たよぉ?」

「わあ!よかった!一緒に花火、見ませんか?」

「ん~…いいんじゃない?」


ふわりと木から降りて来たヤユさん、なんだか捉えどころのない…不思議な雰囲気のドールだ。そういえば、エマちゃんと部活を立ち上げようって話をしている輪の中に、ヤユさんも居たっけ。どんな部活になって、一緒にどんな活動をしていけるか、楽しみだ。




ヒュ〜、ドンッ

パパパパーン!!!



花火が光って、集まった皆を照らした。


リリーちゃんがそっと寮に戻った。

リブルくんの視線を感じたけれど、気付かないでいることにする。

戻ってきたリリーちゃんは、お菓子を持ってきてくれたらしい。ヒマノ先輩と、いつの間にか来ていたロベルトくんがリリーちゃんのお菓子を食べて、その感想に涙目になるリリーちゃん。どんな味だったのかな?私も食べてみることにした。


ふふふ、個性的な味!



ほらね、楽しかった!



リリーちゃんのお菓子みたいに、個性的なドールの集まるこのガーデン。

明日はどんな日になるだろう?


今日も、今も、私の内側では様々なカラーの声が騒いでいるけれど、どうやらそれは明日を期待する方向で。


私は今日も、明日を楽しみに生きている。


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