欠けたもの

「私には何かが欠けている。足りないの。なにが足りないのかも分からない…」──そう言って泣く声があった。どうしても思い出すことの出来ない、私に足りない、私の欠けたものとはなんだろう?


「知らない方がいいこともある」──疑問を抱く度、そう言って笑う声があった。たしかにそうかもしれない。



それでも。

私は、





時が満ち、欠けたものを思い出した私は、安堵した。



奪ったのでなくてよかった。


大切にしていたものがあったのだと、

思い出せてよかった。


それがなんなのかはまだ分からない。

私の大切なもの……今誰が持っていて、どうすれば取り返せるのか。それも、まだ分からない。


分からないことだらけだ。


それでもいい。

私は何も変わらない。


何も感じない。


動じない心を持って、

あの子を演じる。

皆の指揮をとる。


私はアイラ。

私たちを結ぶ透明な糸である私は、

ほつれてふつりと途切れそうな命を

幾つもの色で繋いでいる。




私が捨て損なった色。私の命を繋ぐ糸。

今の私の大切なもの。


彼ら彼女らにもまた、それぞれに大切なものがある。

橙色の彼女の、金魚たち。

黒色の彼の、白い猫。

黄色の彼の、灰色ネズミ。


皆まとめて、私の大切なもの。


今手を離れているらしい大切なものも、きちんと返してもらおう。


捨てられない私は、手放せない。

大切なもの全て、この手の中に。






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