アイラの魔法鍛錬:黄

世の中には知らない方がいいこともある。

例えば、神が僕たちを見ていて、手の平の上で滑稽なダンスを踊る僕たちを楽しんでいるのだとしたら………そんな道化をいつまでも演じていたいかい?


答えはNOだ。

あくまで僕の答えは、ね。


まぁ、それだって別に知らなければどうということもない。


僕の知りたくなかったものを具体的になにかひとつあげるとするならば、そう………魔法の素質の等級、とかね。


知りたくなかったなぁ。


限界を知ったことが枷になって、魔法のイメージに制限がかかったような気がする。

僕が本の中の物語に出てくるような偉大な魔法使いだったら、どんなによかったことだろう!


実際は若葉級の、燃費はいいけれどもそもそも燃料の容量が少ない、それが僕の魔法に関する限界。


そしてそれを超えてこそ楽しい。


だって、男の子だもん?

強くなりたいじゃないか。


そんなわけで今、秋エリアに来ている。


穏やかで心地好い、賑々しくも少し寂しいような気持ちもする場所。なんだか眠気を誘われるが、このまま寝てしまうと次に目が覚めるのは僕ではないかもしれない。


「ふあ…ぁ、よーし、やっちゃうよ〜」


欠伸をしながら大きく伸びをした。

魔力が底をついたら寝入ってもヨシ。目覚めた時には魔力も回復しているはずだ。


「浮かべ」


靴に浮遊魔法を掛ける。空飛ぶ小さな妖精の魔法の粉みたいに、全身に掛けてすいすいと空中散歩が出来たらどんなにいいだろう!

僕にできるのは、浮かぶ靴を履きこなそうと繰り返し練習することだ。


「よっ、っと、っと、……よし、いいぞ」


腕を広げ、1歩1歩空気を踏みしめるように歩く。綱渡りのような不安定さ。空を自由に飛び回るなんて、夢のまた夢!


「よし、よし……、段々慣れてきたぞ。鍛えられてるの、魔法のコントロールっていうか、体幹だよねえ…これ」


苦笑するが、なんにせよ自分の成長を感じるのは嬉しいことだ。───なんて、油断と安心が命取り。


「うわっ!?」


バランスを崩し背中からひっくり返れば、不格好にも靴だけが浮かび。背を地面に着け、靴を履いたままの足を天へ上げた格好になる。


「いてて、て、……わはー、むっずいねえ〜」


いっそ秋晴れのように清々しい悔しさ。神様はちゃんと見てくれているかな?僕のこの不格好を!


人生は喜劇だ。

ひとりでも、ふたりでも、楽しく踊って、笑って、夢を見よう。

楽しい夢を見ようじゃないか。



目を瞑った僕が次に目覚めたのは、自分の部屋のベッドの上だった。




どこから入り込んだのやら、黄色と黄緑の目をした白猫が、僕の枕元にちょっとした贈り物を持ち込んで、大変褒めてほしそうにこちらを見つめていた。猫に生命の行方を握られた灰色のネズミは、されるがままぷらぷらと首根っこを咥えられている。


「あ〜…っと。可愛い子猫ちゃん、それは…僕が貰っていいのかな?」


猫から受け取った灰色のネズミの、なんだか悲嘆に暮れているように見える瞳。


「……そうだなぁ、どうしようか」


そういえば、僕の宝箱には青いリボンがあった。お菓子についていたんだったか、なんとなく捨てられなくて取っておいたヤツ。


尻尾に結んであげよう。

これで、僕のものだって分かる。


「いいかい、子猫ちゃん。これからはこの悲哀の子ネズミちゃんを守ってやってくれるかな?僕はアイラ。今から僕のものになったこの子はそう………青い子ネズミちゃん。……や、それじゃあんまりか……名前は……」


「アリア」


弱いきみが強く生きられるように、エールを送るよ。

よろしく、アリア。



***


「ところで君の名前は?」

「なぅー」

「なうー?」

「あぅー」

「あははっ、何言ってるか分からないけどよく鳴く子だね」

「クルル」

「猫ってそんなふうに鳴くことあるんだ?」

「クルルなーん」







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