アイラの魔法鍛錬:黒


気が付いたら、ここに居た。


ここはガーデン。箱庭の中の学校。


俺の名はアイラ。


とある生徒の内側に存在する全員がその名を名乗る。



初めは必要に応じ呼び出されていたが、近頃は不意の交代が増えている。


俺が表に出ている時間は貴重だ。


図書館に行くのもいい。

冬のエリアへ行くのもいいだろう。

ひとりで静かに過ごしたい。


だが…状況を見るに、今はこの場所で、魔法の練習をしようとしていたんだろう。

秋のエリアは静かで穏やかだ。少し色味がうるさい…と、そう感じるのは、日頃迷惑をかけられまくっている橙と黄の“アイラ”がひどくうるさいからか。


魔法は好きだ。学びの一環として。

やればやるほど上手くなる。

使い方を工夫して、

出来なかったことができるようになる。


俺にだって、目立つほどじゃあないが、喜びを感じる心はあるんだ。


少しずつ上達する、自分の魔法の腕前を楽しんでいる。


まずは基本の魔法から。


浮遊魔法は、物質を宙に浮かせる魔法。


「浮かべ」


秋のエリアのどこを歩いても落ち葉を踏む。

それを高く浮かび上がらせる。


「縮め」


浮かべた木の葉に魔法をかければ、先にかけた浮遊魔法が解け、小さくなった木の葉ははらはらと落ちる。


やはり同じものに複数の魔法をかけるのは難易度が高い。


もう一度だ。


「浮かべ」


先程より多くの木の葉を巻き上げることができた。


「縮め」


精度がまだ甘い。浮かび上がらせた木の葉のうち、半数は縮小しなかった。

不揃いの木の葉が地面に落ちていく。


魔力量の少ない俺は、魔力効率で勝負する。

一瞬の勝負だ。

より多くの物質を、より高く浮かび上がらせるために、魔力を使用するその時間を、最小限に抑える。


何のために?

こういった小細工をする為に。


「浮かべ」


先程まで雑に浮かび上がらせていた木の葉を、位置を吟味して20ばかり高く浮かせる。

魔法を解除する。


「映せ」

「瞬け」


はらはらと落ちていく木の葉に反射魔法で鏡の性質を付与した直後に、最高出力の発光魔法で光らせた手を飾す。


我ながら目を瞑らざるを得ない光が生じた。


使い所も無いが、良い出来だ。


が、まだ改善の余地がある。


「浮かべ」


落ちていく木の葉が多面の球体を形作るように意識して浮遊魔法をかける。


「反け」

「瞬け」


手をかざせば光は反射を繰り返す。今度の方が、上手くいったように思う。

反射し合う光の中心は先程よりも強い輝きを放った。

浮かせた木の葉が落ちるまでの、ほんの一瞬のことではあるが。


さて……浮遊と縮小という基本の魔法、そして反射と発光のイエロークラスの固有魔法。少ない魔力量を効率よく使っているとはいえ、はやくも疲弊してきていることを感じる。


まだ練習出来ていないのは、筒を通して物質を透過して見る魔法と、念話魔法。


「………」


念話魔法は……他の奴に任せればいい。とりあえず今は……と、思い続け、少しも練習を出来ないまま今に至る。身体を同じくする他の誰よりも念話魔法が下手である自信がある。


俺は特別誰かと親しく話したりはしないから、念話を繋ぐ相手が居ない。

透視魔法を練習して終わるとしよう。


「見通せ」


ポケットに入っていた紙切れ2枚で間に合わせの紙筒を2つ作り、大きなウロのある木を覗き込む。

木肌を透視し、内部の暗い大きな穴が見えた。

……黄色と黄緑の瞳がこちらを見つめ返している。



ウロから引っ張り出したそれは、黄色と黄緑のオッドアイの白猫。ワンズの森から迷い出てきたのか…?

…寮に連れて帰っても良いのだろうか。バグのやつかセンセーに相談してみよう。

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