第10話 二人の歌声

放課後、いろはは誰もいない音楽室で、ギターの練習をしていた。ギターの音色と、彼女の透明感ある歌声が調和して、優しい空気を満たしていた。

アルは図書室に行く前に、音楽室の前を通りかかった。彼女はいつも一人で本を読んだり、歌を聴いたりして過ごしているのだが、今日はギターと歌声に引き込まれるように音楽室の前で足を止めて、その曲に聴き入ってしまった。いろはのギターと心から奏でている歌声が、アルは心に響き、ますますその場から離れられな苦なってしまった。


歌が終わると、いろははギター置き、ふうとひと息をついた。それと同時に、アルが音楽室の扉がするすると開いた。

「素敵な歌声だった。心にしみるちゃったよ」

アルは拍手をしながらいろはを称えた。

いろはは少し驚いた表情でアルを見上げ、そして笑顔で言いました。

「ありがとう。まさかアルに聴かれてるなんて思わなかったよ。気に入ってくれたのなら嬉しい。でもちょっと恥ずかしいな」

アルはいろはの隣に座りました。二人はそこから、音楽と本の世界を共有し始め、会話が広がっていく。アルが興味津々で質問すると、いろはは優しく答え、お互いの趣味や好みについて話し始めました。音楽や言葉を通じて織り成されるふたりだけの特別な空気が広がり、それが次第に心を通わせるきっかけとなっていったのです。


アルは意を決して告白します。

「実を言うとさっきの曲私も大好きなんだよ。だから聞き惚れてしまったんだ。いろはのギターと歌声を通して聴くと、なんかすごく心が暖かくなる気がしたんだ。とっても良かったよ」

アルは少し照れくさそうにしながらも、いろはの曲に対して素直な感想を言うことができました。


「ありがとうアル。とっても嬉しいよ。じゃあ一緒に歌ってみる?」

いろははアルの返答を待たずにギターを弾き始めます。

いろはの優しさに触れて、アルはなんだか歌うことへの不安が和らいでいくのを感じていました。二人はアイコンタクトをして気持ちを通わせて、アルは歌う覚悟を決めました。アルは歌い出しに少しドキドキしていましたが、いろはのギターの旋律いろはの目で語られている大丈夫という気持ちに乗って、歌い出しました。


アルの歌声は、意外なほどに美しく、力強く、いろははびっくりしました。いろははアルの歌声に合わせるように静かに歌い、アルの声と調和してひとつになっていきます。互いの声が重なる度、まるで新たな音色が生まれるかのように、美しいハーモニーが室内に広がります。


「すごいな、アル。歌うの上手すぎない?びっくりしちゃったよ」

アルは素直に微笑んで答えました。

「ありがとう。そんなに褒めても何も出ないよ。でも、本当に?恥ずかしいけど、嬉しいな。いろはのギターの音も、歌声も本当に素敵だったから乗せられちゃったかもね」


お互いの言葉を交わしながら、歌を通じて心が通じ合っていく感覚は、まるで新たな世界への扉を開いたようでした。アルといろはは、音楽の魔法に身を委ねながら、お互いの内面を探り合うような、特別な時間を共有しました。


「いろは、君のギターの音色と、歌声が聞きたいな」

アルが恥ずかしそうにしながら言うと、いろはは優しく微笑んで頷きます。


その場にいるだけで心が温かくなるような、音楽の魔法に包まれた彼らの会話は、二人の絆を更に深める特別な瞬間となりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る