第8話 刺繍

家庭科の授業が始まり、さくらとてれさはエプロン作りに取り組んでいた。彼女たちは仲良く座り、彩り豊かな生地や糸、そして刺繍針を手に取っていた。二人はワンポイントの刺繍を何にするか悩んでいた。

「さくら、このエプロン、どんなデザインにしようかな?」

てれさが楽しそうに言った。

さくらは少し考え込んでいた。

「せっかくだから、フィギュアスケートをモチーフにしたいなあ。ビールマンスピンで作ろうかな」

「ビールマンスピンって何?」

「んーとね、片足をあげてその足を両手で掴んで回るの」

「それいいね!フィギュアスケートっぽいし、一眼で分かるかもしれない」

てれさはニコリと微笑んだ。


さくらはうんうん唸りながら紙と格闘して、下書きを描き終えた。

「ちょっとてれさこれみて欲しいんだけど……」


そこには新種の軟体動物というか宇宙人というか、果たして生き物なのか、それとも、道路に落ちている何かのゴミなのか、判断することができない、地球上には絶対に存在し得ないものが描かれていた。これをエプロンに刺繍しているのを見た人は、これをなんだと思うのかてれさは想像もつかなかった。


「んー、さくら、これはビールマンスピンであってるの?」

「いや確かにちょっとだけ違う気もしてるんだよね。優雅さがないというか、綺麗さが表現できてないというか」


てれさはそういう問題ではないという言葉を飲み込んで言った。

「ちょっとわかりづらいかもしれないから、別のにしてみたら?何か他の案はないの?」

「フィギュアスケートのモチーフで完璧だと思ってたから、他には何にも考えてないよー。そんなにいうんだったら、てれさも何か考えてよ!」

さくらは頬を膨らませている。


「最高の案があるよ」

てれさは満面の笑みで答えた。

「え?何?」

「桜の花びらだよ。さくらのエプロンってすぐ分かるし」

「それってありきたり……」

「それがいいんじゃない?私に聞いたんだからね。これが私の考えだよ。こう言う時はシンプルが一番!」

さくらはてれさに押し切られてしまった。


流石のさくらでも桜の花びらはなんとかかけて、普通に可愛い刺繍が完成した。

「てれさ、どうかな?」

「ほら可愛い。さくらには桜がぴったりだよ」

「まあ確かに、ちょっと可愛くできたって自分でもびっくりだよ」

「てれさはどんなエプロンにしたの?」

てれさが微笑むと、彼女はさくらに手渡した。さくらは驚きを隠せなかった。そこにはピンク色の可愛らしいパンダが桜の髪飾りをつけているモチーフが刺繍されていた。


「すごい!」

さくらが声が教室に響き渡り、クラスのみんなの目が降り注ぐ。さくらはそれを気にもせずに興奮している。

「めちゃくちゃ可愛い!てれさすごすぎるよ」

「桜がついてるのがポイントだよ。いつでも一緒だね」

「もー、てれさ、すっごく嬉しい、でもこんなにすごい刺繍だと私の桜は……」

「そんなことないよ、さくらの桜も可愛いよ」

「てれさ、私のエプロンにもパンダ刺繍して!」

「いやそれはめんどくさいかな?」


二人の会話は続いている。

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