第50話 調停

 王国は、混乱をした。

 数万の兵が、数千に敗れた。


 生き残ったのは、わずか。

 デニス=ヘルストレーム伯爵により、情報が持ち帰られる。

 宰相である、アウグスタ=ガンビーノは頭を抱える。


 急遽、第一王子であるエイナルを、王とするため戴冠式を行う。


 そしてその傍らに調査を行い、ジャンパオロ=オリヴェル伯爵とエミリアン=リクハルド男爵達が画策した陰謀であると断定。

 両家は取り潰す。


 だが、結果として王国に対しての反逆者となった、アルトゥロ=パチェコ男爵の問題。

 幾多の貴族、そして王まで殺した大罪人。

 国として、そのままにはできない。


 だが、数万の軍勢を討ち滅ぼす力。

 そもそもの発端は、此方の落ち度。


 そこに、答えを導くのは無理がある。

 勢いのまま王都へ進軍でもしてくれば、まだ他の諸侯も立ちやすい。

 だが、パチェコ男爵は沈黙を守る。


「なあ。戦には勝ったが、これからどうなるんだ?」

「さあ、今交易はオリエンテム王国とするようだが、向こうでも色々とあったようでな」



 そう、オリエンテム王国の辺境。

 パリブス王国へと割譲をした領から始まった、新農法と生産物。

 裕樹に頭を下げて、国内へと援助を広げた。


 各領は、物資輸送用モノレールが張り巡らされ、その沿線はパリブス王国を中心として、北のセプテントリオ王国や、西のオコーデンタリス共和国にまで届いている。

 今まで数週間かかっていた荷物が、数日で届く。


 野盗による損失もなしに。


 当初は、野盗など盗賊達による、倒木や置き石が有り損害が出た。


 だが、それがあった周囲は徹底的に調査。

 そして慈悲などない徹底的な駆除。

 今では、沿線にフェンスと有刺鉄線が張り巡らされている。


 その期間行われた駆除は、本当に無遠慮で無慈悲なもので、本当に駆除といえるだった。


 奪ったもので、宴会をしている最中、無音で飛来する矢。

 気がつけば、生きている者はいない。


 あらかじめ数人だけ生かして、助けを求める繋がりを追う。

 周囲のグループを順に潰していく。

 その中で、取引のあった商店もあぶり出して、繋がりを潰す。

 そこに、慈悲はなかった。


 この世界に来て、数年が経ち、彼らは学習をした。

 この世界、駄目な奴は駄目だと。

 残せば、善良な人間が虫けらのように殺される。

 そこに、慈悲を入れるのは、ただの自己満足であり悪だと。


 気がつけば、盗賊などはいなくなっていた。


 だが真面目に暮らさせば、いくらでも仕事はあった。

 パリブス王国から広がった好景気。


 物価は下がり、一気に一般の民達はその生活が変わっていく。

 荘園制が、強制的に解除されて、自由を得た人々。


 一部ではあるが、病気から解放されて、新たなる生活を始める人たち。


 すべてが変わっていく。


 その輪から、メリディオナル王国は取り残されていた。

 そして内戦ともいえる状態から、その対処をこまねいている間に、慶子はオリエンテム王国を経由して、再び裕樹達と繋がる。


 それには、三年の時間が必要だった。


 その前に、メリディオナル王国はパチェコ男爵を前に逃げた。

 鉱山のある直轄地、旧ヘンリク領を含め、オリヴェル領やリクハルド領を見捨て、パチェコ男爵に対して、罪を問わないことを正式に通達。

 前王の死なども、不幸な事故として済ませてしまった。


 内戦ともいえる戦の詳細。

 それが、国内で伝わると、残った貴族達は逃げた。

 パチェコ男爵に対する懲罰。

 それに名前が上がったとき、自身がどうなるのかを想像してしまった。


 兵を挙げ、殲滅するために、彼の軍団がやって来るのではないか。

 圧倒的暴力。それを各貴族は恐れた。


 宰相も、実際困っていた。

 多数の貴族がいなくなり、内政にも困る状況。

 だが、パチェコ男爵の事は放置できない。

 国としてのメンツもある。


 だが、懲罰賛同者はいない。


 そこへやって来た、オリエンテム王国が調停者としてやって来た。


 その中で、トップだけが話し合い、税金は納めるが領への干渉無用。

 周辺の領は合併。

 王達については、よくよく考えれば、流布された悪意に踊らされての不幸な行き違い。

 間違った懲罰に対して、パチェコ男爵は身を守っただけ。

「それの何処に罪がありましょうか? もし、彼に力が無く。不当な罪を着せられた場合、王国はきちんと対処を行いましたか?」


 何処まで知っているのか。

 オリエンテム王国がよこした調停者は、そう言って笑う。


「パチェコ男爵が、負けていれば、その後はなかったであろう」

 宰相はそれだけ言って、調停書にサインを行った。


 一方的な王国側の負け。


 実質、パチェコ男爵は巨大となり、今後内政にも干渉しない文言が、書かれた文書を受け取った。

 建前上伯爵となり、その力を増す。


 そして、三領を加えて巨大化をしたパチェコ伯爵領は、オリエンテム王国と繋がりさらに力を増していく。


 その後、裕樹の所から、使者としてやって来た秀明が、慶子から子供を見せられ、泣きながら帰ったときに結んだ契約は、すべてが甘々で、慶子の思う通りにすべてが進んだ。


 技術移転まで結んでいやがった。

 そう言って、後で秀明は裕樹に叱られることになる。


「だって、すごく幸せそうな顔で、子供を見せてくるんだ」

 そう言って、秀明は泣き濡れた。

 元彼として、完全に惨敗である。


 行くときには、慰謝料がてら、有利な規約をしてくる。

 そう言っていたのだが、完全に慶子が上だったようだ。

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