第51話 切っ掛けと反逆者

 そんな混乱の中で、パリブス王国は製糸から縫製までのすべてに対して、機械を投入。

 オコーデンタリス共和国を経済的に駆逐する。

 昔のイギリスのように。


 今までは、仕立てが一般的だった。

 一般市民では、手が出ず古着が主流。


 そこに流入する、既製服。

 この大陸の服飾を一手に引き受けていた、オコーデンタリス共和国は大打撃を受けた。


 さらに、得意としていた綿織物や生糸、そこで一気に負け、オコーデンタリス共和国は力を失う。

 手作業と違い、機械で作ったものは均一であり、喜ばれたからだ。



 逆に、セプテントリオ王国は、魚加工や製塩でパリブス王国と手を組み、力を増していく。

 コンティニアス大陸において、各国の力関係は大きく変わった。


 すべての中心は、パリブス王国を起点として動き始めた。

 そこには、滅びる間際であった姿は何処にもなく、すべての道は王都パロプンテへと通じていた。


 一瞬だけだが。



 王都にあった、中州の研究所から人が居なくなった。

 むろん、裕樹が専用の研究室を用意したから。


 風光明媚で住人は、元奴隷だったためか、おとなしく従順。

 その安全性に、クラスメイト達は喜んだ。


 各種実験施設を、来たときとは違い、目的別にきちんと作った。

 当然使う者達が、意見を言って使いやすくだ。

 右も左も解らず急遽作った研究施設は、仕方の無いことだが、使い勝手悪かった。


 今は、コンクリートもあり、基礎や防水をしっかりして、上下水道も完全に作る。

 各種工作物も前とは違う。


 各部屋への、コンセントの設置。


 石油の採掘はしていないが、樹脂や穀物油を加工して、製品も作られている。

 油脂やエポキシ材。植物由来の高分子が、この世界では一般的になっている。


 さらに、各周期表の穴埋めを進める。

 精製と単離。


 うろ覚えな知識からの、解析用機械製作。

 この領では、現地人にも教えていきながら、共に研究。それを推進をする。

 その点でも、ここの住人は、喜んで覚え。

 従ってくれる。


 地頭は悪くなく、自己での判断を拒否するきらいはあるが、取りあえず問題は無い。


 そんな中で、裕樹の領である、カミーノ領発展に難色を示す者達が出てくる。


 王都周辺で、やっていたときは、それはそれで苦情を言っていたが、いなくなればいなくなったで文句を言う。


 危機の時、王国を売った連中ほどではないが、危機が過ぎれば自己の欲が前に出始める。

 人間は得てしてそんなものだが、情報の重要さは王にも説明をして秘匿をしている。

 そのため部外者は、何も見えないし聞く事は出来ない。


 見えているものは、ただ目の前を、製品が素通りをしていくだけである。

 特に街道が通っていた領主達。

 通行税を払えとか言ってきた。


 そもそも、往来の税金は、人が入ったときに、人に対して掛かっていた。

 名目は、領内での経済活動許認可や、道の使用料。

 盗賊などからの、警備費。


 実質取るだけで、なにもしないのが通常運転。

 道の補修はやっていたが、所詮は未舗装路。

 いい加減に埋め戻すだけだし。


 造るときには、よく分かっていなかったようで、文句も言わなかったが、往来する荷物が減ると、当然ながらそれを警備する者達も必要なくなる。

 多少、実入りが減ったらしい。

 まあ、そんなこんなと言うことで、うだうだと言われ、経路を他領へ移設。

 その動きは素早く、文句を言った領は、経済の枠からから外れる。


 それと同時に、シールドマシンを開発。


 計画している経路は、安全上秘匿という事で、王に許可を取り工事を始めた。


「そうだよ。最初っから地下を掘っておけば、盗賊対策も必要なかったし」

「それ、開通まで何年かかるんだ?」

「まあ、そりゃそうだが」

 今のように、機械が作れなかったときの話。

 何せ、距離が長い。


 工事に携わっているのは、犯罪奴隷と、平時は暇な兵達。

 そのため、給料は出ない。

 非常に安価ではある。


 食い物は出るし、地下には所々宿舎を作り、風呂まで付いている。

 この上部には、車とかが、通るようになれば、排気筒を造る予定。

 そう、作っているのは将来を見据えて、まともなトンネル。


 それが、密かに大陸に掘られていく。

 それも国を超えて。相手国には許可など取っていない。

 それの危険性など考えていなかった。


 最もそれを利用したのは、裕樹達だったが。

 相手にしてみれば、突然湧いてくる軍。

 恐怖だろう。


 そんな世の中で、オコーデンタリス共和国がひょっとすると、軍を起こすかと思ったが、パリブス王国内で、不満を持った貴族達が兵を挙げる。


 馬鹿だろうと、みんなが思っていた。


 だが王国を守る兵に、貴族の手の者がいて意外と苦戦をする。


 王都の城門が閉じられず、敵の中に直前に流された複合弓が渡る。

 当然、コンパウンドボウでは無い。

 大半は、図面を書いて流したのか、材質の問題で脅威にはならないが、以外と王国軍は押し込まれる。


 国外向けには、銃の配備等を行っていたが、内部は既得権益の都合上、旧態依然のままだった。


 王達は、何とか抜け出して、オリエンテム王国側へと逃亡する。

 まともに対処すれば、そうはならなかったはずだが、すべてが後手後手に回り、敗走だ。


 新型の馬車は速く、無事に追っ手を巻いた。


 まあ最悪だが、逃げることにおいては、運が良かった。


 途中、旧砦の跡で兵を補充して、カミーノ領へとたどり着いた。


 そして……

「何やってんだ、あんたは」

 命からがら、逃げてきた王は、いきなり裕樹に叱られる。


 まあ無事に逃げられた王達は良いとして、王都では、見せしめのためか血の粛清が始まる。

 王都にいた者達で、商人なども含め裕樹達と関わりが会った者達は、速やかに王都を脱出をしていた。

 元々、付き合いはずっとあり、此方にも出店してあった。

 王都での商は縮小して、此方の領で、他国相手に手を広げていた者達も多かった。


 そんな都合良く、関係者がいなくなった王都では、従わない貴族を見せしめに殺すそんな惨劇が起こっていた。ひゃっはー状態で。


 だが、連絡は速やかに渡り、国境付近から脅威はやって来る。

 各国の国境には、最新装備の兵達がいるのだ。

 反逆者の天下は、一月も持たなかった。

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