第44話 静に騒乱の種はまかれる

 メリディオナル王国で、噂が持ちあがる。

 アルトゥロ=パチェコ男爵に、謀反の可能性がある。

 強力な武器の生産と、よく分からないものが、領都において運用されている。


 そんな噂が、王であるベッティル=ハルト=メリディオナルの耳へと入ってくる。

 いや、意図的に流す連中がいる。


 過去の因縁や、それ以降の見下すはずの存在だった。

 それが今。彼の領には人が流入して、飛ぶ鳥を落とす勢いで発展を続ける。


 何をしたのか知らないが、単位面積当たりの収量は他の領に比べてかなり多い。

 しかも、見慣れない道具を使い、少ない人数で大きな農地を管理している。


 慶子は牛用の農具である、無床犂むしょうすきを記憶にあった歴史の教科書から思いだして試作。これにより、深く耕すことが出来るようになった。土を耕し、深く空気を入れる。それが土壌改善の基本。


 荷運び用の牛や馬を、空き時間にこき使った。


 慶子には、特殊技術も専門知識もある訳ではない。

 だが、日本での生活。その中で、子供の頃から見て、その動きを理解した機械は、未知のものではない。考え試行錯誤をすることで、そこそこ再現できる。

 本からの知識で、発酵肥料の作り方などは知っているし、窒素とリン酸。カリなど。そこに、補助機能を持つカルシウムとマグネシウムを加え、肥料の五要素という言葉も知っている。


 カルシウムは植物の組織全体を強化する。そして、マグネシウムはリンの吸収を助けて、植物内の酵素を活性化する。

 領内で苦灰石くかいせきが発見をされたのも大きい。

 石灰石とマグネシウムの混合物。

 要するに苦土石灰くどせっかいだ。


 それまでは、焼き畑なども試してみた。

 土のpH調整と、殺菌。

 栄養素のバランスを取れば、作物の収量は増える。


 木酢酢による消毒や虫除けも試した。


 そんな、試行錯誤を積み重ねてきた。

 その結果よかったものを、手順書として民に教えて、ついでに読み書きと簡単な四則演算も教えた。


 兵については、初手が弓。次にファランクス。混戦で剣となる戦術を見直した。


 短弓として、威力のあるクロスボウを採用。

 そして、矢を二種類作る。

 盾を構えられた時用に、貫通力重視タイプと、殺傷力重視の反しが付いたもの。


 隊を、三列で組み。矢を放った者達は、その場でしゃがむ。最後列のものが矢をつがえながら最前列へ移動。こうやって順に前進をしていく。


 その後ろに、長弓部隊。

 短弓で、敵の進軍を止めながら、直接相手の本隊を攻撃をする。

 防ごうと思えば、全兵が盾を装備しなければ無理だ。


 その間に遊撃部隊が側面へ周り、やはり弓。

 つまり基本は遠くから敵を殲滅。


 そして時間があれば、落とし穴を造る。


 試してみると、この戦法が意外と使えて、騎士などが近くに来られない。

 馬はどうしたって背が高いため、徴用兵から浮いてしまう。


 そして我慢が出来ず、無理矢理に前に出てきて、落とし穴へはまる。


「強いな。人数は変わっていないのに圧倒的じゃないか」

 アルトゥロとセルソ=エスピノ。セルソは友人であり、騎士爵を持っている。

 二人が呆れる。


 運用は、簡単。相手の出方に合わせて、合図を送れば。勝手に決まっている所へ兵が移動をする。


 合図は、太鼓や笛。


 簡単なもので、一回打ち間をおく。

 その後また一回と繰り返す。


 これを、ドドンと二連続とか、三連続で意味を変える。


 このため、作戦中はかなり賑やかで、意外と楽しいし、兵によってはもう太鼓と笛がないと駄目だと言い出した。

 気分の高揚に、効果があるようだ。


 そして、うろ覚えだった黒色火薬ができた頃。

 紙に包んだ火薬と玉で、簡易な紙製薬莢かみせいやっきょうを慶子は作る。

 銃自体は、ライフリングがない火縄銃だったが。


 すぐに、クロスボウ部隊は、両方を装備。


 基本は、長槍のかわりなので問題はない。


 そんな姿は、王の放った間者に見られていた。

 むろん、報告もされている。

 だがそれは正確ではなく。

 間者はたまにしか聞こえない、銃の音をそれが何かをしらなかった。

 それに王は、自分に対して謀反など。そう思って放置をしていた。


 ヘンリク領の鉱山の話もあるし、それによりパチェコ男爵領は潤ったはずだ。


 当然間者を放ち定期的に、情報を拾っている。

 謀反の兆候などはない。


 だが、噂は流れてくる。


「王の間者に、ばれるようなことをするはずがない」

 そんな忠告が、当然のように耳に入ってくる。


 そんな話は、王へ向かってくるだけではない。

「王家が、先祖に対して行ったことは許してはならん」

 また親や、叔父。

 思い出したように言い始める。


「証拠は? 何か見つかりましたか?」

「新たには無い。だが十分だ」

 叔父はそう言うだけで、決して自ら動かない。


 謀反を起こせば、一族が滅ぶ。それだけは出来ない。

 だが、許す訳にはいかん。


 昔から、ずっとそれの繰り返し。


 だが今、再び目立ち始めた、パチェコ男爵領。

 民を奪われたり、品質の差で、売り上げが下がった領もある。


 やっかいな叔父が、目を付けられるのも必然。


 共に王家を倒そう。

 何か、強力な武器はないのか?


 そう聞かれた叔父は、床下で、硝石を作っている、かくれ里を教えてしまう。


「あそこで、秘密裏に何かを作っている」


 そんな話が持ち込まれる。


 そして王は、強制調査を命じる。

 調べてみれば良い。それだけだ。


 だが命令を受けた、オリヴェル領

 ジャンパオロ=オリヴェル。

 エルヴィ=ヘンリクと手を組み、鉱山の生産量を誤魔化し、儲けを出していた。

 だが、王の手が入り、その儲けが消えた。


 そして、パチェコ男爵領からの野菜や、金属類。

 面白い仕組みの道具が領内で売られ、さらに、自領の工作物が品質が悪く、売れなくなった。


 さらに、リクハルド領。ここも、当然絡んでいた。

 両者からまともな調査など、上がってくる訳もない。


 パチェコ男爵がなにも知らないまま、懲罰が決まってしまう。

 そして、懲罰軍は、王の命令をかさにきて、パチェコ男爵領で、悪さを始める。

 そのため、当然だが防衛のためにこれらを制圧。


 王と、パチェコ男爵。共に詳細が分からないまま、相対する事になる。

 その結果、王としては最悪の結果となる。

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