第41話 戦争が落ち着いたら、また難題。

 オリエンテム王国との騒動は終わった。

 正式に、パリブス王国からの紐付きだが、復興支援をする。


 人的被害は大きかったが、建物とかは避けたし、一般の民への被害はなかった。

 それが、敵意とかを抑制するのに、意外と効果的だったようだ。


「悪かったのは、旧王とその周りの貴族。それを徹底的に喧伝をした」

「うん。それで良いだろう」

 何故か俺は、王と一緒に報告を聞き、今後の政策と方向性を議論している。


「何で俺が?」

 そう聞いたら、王達はにっこりと笑う。


「侯爵として、給料を貰っていよう」

 確かに、貰っている。

 だが、仲間達が必要な物を買い、人を雇うと、どんどん減っていく。


 他の貴族なら、畑で農産物を作り、鍛冶や採掘で金を得ることができる。

 だが俺にはそれがない。

「―― うん?。いやいやいや。おかしいだろう。うちが造ったものを、国へと言うか軍へ渡しているんだ。それには、料金が発生しても良いだろう」

「そうね。おかしいわね」


 その場では思いつかず、家に帰って、美咲達に愚痴っていたら、思いついた。


「良し。まとめて、ふっかけよう」


 そう意気込んで出かけると、王達のほうが上手だった。


「丁度良いことに、オリエンテム王国から詫びというか、賠償の代わりに我が国との国境地域を貰った。結構広いし、水も豊富。山もあるし探せば資源が眠っておるかも知れぬ。そちにやる。神野辺境伯として治めてくれ」

「なっ」

「それにのお。動いていない、クラスメートとやらも王城には居るのだ。養わないとまずかろ」

「俺が、やつらを養うのか?」

 その問いに王は答えず。ただ、ニヤニヤしている。


「だああ。分かった」

 そうして、神野辺境伯を拝命をする。


 再び、要塞へ向かう。

 自分の土地となる、簡単な地図を携えて。


「おおい。元気か?」

 作った菓子や、食料を持って尋ねてきた。


「おお。これはこれは。先日の作戦以来ですな」

 現れたのは、トルスティ=クレーモラ伯爵。


「元気そうだな」

「はっ。ありがとうございます」

 ばさっと、紙の束を渡す。


「これは?」

「辞令だ。砦の全員分」

「なんと」

 そう言って紙束の中を見る。


「この、新要塞というのは?」

「まだない。これから造る」

 思わずトルスティと二人。ため息が出る。


「この新要塞は、何処に造るのでしょうか?」

「ああ。そうだな。王から、俺はこんな辞令をもらった」

 そう言って、辺境伯への就任辞令を見せる。


「ほう。旧オリエンテム王国ですか。それはそれは」

「これから行って、向こうの貴族にも会わなきゃならん。付き合ってくれ。最初に脅す」

「承知いたしました。出立は?」

「準備でき次第。すぐに、だな」

「分かりました。兵に伝えます」


 そう言って、慌ただしく、伯爵は出ていった。


 今回、美咲や千尋も付いてきている。

 現場を見て、家でも建ってからと思ったが、許されなかった。

 うん? 例のお姫様のことが、やつらの耳に入ったようだ。


「俺は、そんなにモテないよ」

 そう言ったのだが……


「なに。私たちを馬鹿にするの?」

「そうよ、こんなに若くて美人が、二人も好きになっているのに。あっ。ちがうわねぇー。とっても若い、お姫様もいたわねぇ」

「そうそう、ちょっと留守にしたと思えば。モテモテねぇ」

 と、まあ。詰められたわけだ。


 ――その後。


 美咲から、こそっと言われた。

「離れていると、やっぱり淋しいのよ。外は物騒だし」

 などと言われて、朝まで張り切ってしまった。


 ソレハ、サテオキ。


「野郎ども、準備は良いかぁ」

「「「「「おおっ」」」」」


 そういうことで、砦には副長以下一〇人が居残り。

 それ以外は、全員旅立つ。


 この前の、侵攻作戦と同じ感じだが、気分が違う。


 馬車に揺られて街道を走る。

 野営を繰り返し、途中で、領の境とみられる検問所を見つける。

 この事実から、俺達は自分の領を、突き抜けたということだ。


「たぶん。ここが領境だろうな。旧領がモンストシニョス侯爵領? だな。その隣りはドミニク=ベナーク伯爵領」


「途中に道などあったか?」

 俺は街道沿いに、領都とか、そんな感じの町があるものだと思っていた。

 見たのは、寂れた農村が、いくつかあったのみ。

 

「見て、いないですね」

 来すぎた道を戻りながら、周囲を見ていく。


 すると。南側の山間部に大きめの建物が見えた。

「あれじゃないか?」

「それっぽいですね。入り口を探してきます」

 そう言って、兵が馬に乗って駆けていく。


 すると、林を横断する道を発見。


 防犯のためか、入り口は狭く、中へ入ると多少広くなる。そこでは、平地部分に畑が作られ、潅漑用の水路も造られていた。


 そんな中に、掘っ立て小屋がぽつりぽつりと建っている。


「辺境伯領って、結構広いのに、この田舎感はなんだろうな」

「あらっ見て。農民達、みんな首輪をしている」

 美咲は言わなかったが、もちろん足枷もだ。

 この時、すでにブチッときた。


 この領自体が、人さらいの巣窟。

 きっと、この農民は攫われてきた人たちだ。


 パリブス王国は、あまり広くはない。


 そのため、丁度良さそうな土地があれば、入植させて開墾をする。


 ところが、人が消える。

 王もその報告は知っているが、兵を多少付けていても、無駄だったようだ。


 山際の、小高いところに建つ領主の館は、かなり立派だが、周囲を壁で囲み。

 その堅牢さは、まるで、牢獄のようだ。

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