第36話 最終日

 夜明け早々に、城門が開き。

 ひずめの音が響き渡る。

 キラキラと輝く鎧。


 だが、ある点を超えた瞬間、全員ミンチに変わっていく。


「早朝の形が整っていないときに、騎兵による奇襲。敵も慌てふためくだろう」

 壁の上で、軍務卿は騎兵の有志を見送る。


 だがそれも、一瞬のこと。


 けたたましい音がして、そちらを見る。

 すると大きな騎士なのか、何か筒を腰だめに構えている。


「何じゃあれは?」

「報告にあった、敵の鉄騎兵だと思われます」

「鉄騎兵?」

 軍務卿、報告書を一切読んでいなかった。

 惨敗も、未熟な奴らが、愚策を実行し負けたのだろうと。


 敵の鉄騎兵が構える筒から、炎が吹き出す。

 そのたびに、味方の騎兵は人の形を失い。吹きとぶ。

 ペラペラの鎧など、役に立っていない。


 すぐに撤収を出すべきだったのを、驚きのあまり忘れ、騎兵三〇〇人は、失われた。わずか数分の出来事。


 壁の上で、警戒をしていた弓兵達も、その光景を目の当たりにした。

 当然、動揺が広がっていく。


 今までの常識を、引っくり返す戦闘。

 フル武装の騎士が、あっという間に殲滅をされた。

 一般の兵でさえ、これはなにかが違うと理解ができた。


 だが、長年軍務に携わり、幾度かの戦闘経験がある軍務卿。

 今までの常識が、目の前の現実を否定する。


「城門を閉めろ」

 何とか、命令を下す。


「弓兵。敵が二〇〇に近付いたら、一斉に放て」

 何とかそう言うと、町の中に降り、部隊編制を急ぐ。


 中に居た兵達は、外の状態を知らない。

 続いて出るものと思っていたのに、城門が閉ざされ厳重に閂が降ろされる。

 いきなり、籠城戦の雰囲気が漂う。


 騎兵はどうなったのだ?

 出てまだ数分。


「おい。何がどうなったのだ?」

「分からん。それに、外で響いた。聞き慣れない音は何だ?」

 厳しい訓練を積んだ王都正規兵も、つい無駄口をきいてしまう。


 それから、一時間も経っただろか?

 再び、乾いた音がし始める。


 城門の上から、弓兵があっという間にいなくなる。

 しゃがんで躱した者もいたが、大部分は最初の一斉射で吹き飛ばされた。


 待機をしている兵達に、訳の分からない恐怖が沸き起こる。


 外の音が、散発的になり。やがて、それは来た。


 分厚く丈夫なはずの城門。

 それを、あっさりと突き通し、並んでいた兵達が倒れていく。

「さがれぇ」

 声が掛かった時には、すでに多くの兵が倒れていた。

 音がやんだ瞬間に、助けに行き呆然とする。


 まだ息のある者はいる。

 だがどうやったら、こんな怪我になるのか想像が付かない。


 とりあえず、大通りから、移動をさせる。


 兵達に準備をさせ、編制を決める。

 正面の土塁を埋め戻し、準備ができ次第、隊を進める。

「いきなり騎兵が出てくるって、どういう事だ?」

「多分、王都在住の、偉い人が出てきたのでしょう」

「それにしたって、此方について、報告も上げていないのか?」

「読んでいないのでしょう」

 やれやれと、伯爵はため息を付く。


「よくあることなのか?」

 報告書のことだろうと、理解して、伯爵は答える。


「プライドが高いと、他人の報告は見ない人が居ますね」

「馬鹿だな。せっかくの情報が。もったいない」

 無駄死にをした、騎兵達の脇を抜ける。


 つい、手を合わせる。


「鈴なりの弓兵が、弦を引き絞っている。一斉射」

 拝んですぐ。城門上に居る弓兵を指し示し、皆殺しの命令を出す。


「上が馬鹿だと……」

 言いかけた言葉を飲み込む。

「すまんな。逝ってくれ」


 ホローポイントが、飛んで行く。

 あたれば、ダメージが大きい。

 バタバタと倒れていくのが見える。

 反動で、矢が放たれたが、此方へは届かない。


 監視をして、弓兵が顔を出したら掃射するように言って、歩みを進める。


 城門は閉ざされており、正面へ気導鉄騎兵団が集合する。一番前の三機が一斉に地面と平行に掃射する。


 最後に、閂を壊すため、縦に何発か撃つ。


「きっと中は、地獄絵図だろうな」

「二〇ミリは、キツいですからね」


「伏兵がいるかもしれない、城門脇にも撃ち込め」

「「「はっ」」」


 掃射が終わり、一機がハルバードを一閃。

 あっさりと、城門が開かれる。

 ここまで五分。


 一〇機の気導鉄騎兵団が、突入を開始する。


 その頃には、敵は背中を向けて、駆け足中だった。


 俺達は、わざと全門に対して包囲をしていない。

 この王都には、四つの大きな門がある。

 ここは、街道沿いの東門。


 逃げるなら、逃げれば良い。

 用事があるのは王のみ。

 そう思っていたが、王が意外とプライドがなかった。


 城を包囲して、攻撃を加え。

「王よ用事があるのは、貴様だけだぁ」


 そう吠えてみたが、近くで呻いている兵が、教えてくれた。

「王は我々に、徹底抗戦。それだけを言って。南へ逃げた。軍務卿も一緒だ。ひどいだろ」

「そうか、ありがとう。治療を受けろ」

 そう言うと、兵は嬉しそうな顔になる。


「殺さないのか? ありがたい。俺はこの後、結婚をするんだ。死んでなどいられない」

「おう。おめでとう」

 そう言って、その場を後にする。

 彼がどうなったかは知らない。


 俺達は、肉壁となる敵を、何かの作業のように撃っていく。


 南の城門を出て、そこに整列した部隊もあっという間に殲滅をして、追いかける。


 そして、馬に乗り。あわてて逃げていく、位の高そうな奴らを躊躇無く撃つ。


 近くに居る兵に聞いてみる。

「お前達の王は、どこだ?」

「何だよこれ。ひでえな。武も何もない。ガキの頃から剣を振り続けたのに」

 泣き言を言ってくる。

「そりゃ悪い。でっ?」


「右翼のほうで、一般兵に紛れていたはずだ。馬で逃げたのは、目くらましだ」

「おう、ありがとうよ」


 周囲を探すと、ボロいマントで服を隠した、偉そうな奴らが死んでいた。

「これか?」

「確認をさせましょう」

 伯爵が走って行く。


 地上は、うつ手がなくなり、使い捨てにされた兵達が倒れ伏している。

「ああ。地上は生臭いが、空は良い天気だ」

 思わず、地上から目をそらし、空を仰ぐ。

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