第34話 開戦初日

 今までの戦争とは違い、両方の陣地が思いっきり離れている。

 弓の飛距離の関係上、五百メートルくらいでにらみ合っていたのが通常だが、今は一キロ程度離れており、悪い事に此方の陣が多少低い。


「まあいい。盾車は俺達が引く」

 気導鉄騎兵団今回の作戦で隊長を務める、アードリアン・ユルゲンス伯爵が指示を始める。


 だがその時、敵であるオリエンテム王国側でも、奇妙な音と、此方に比べると一廻り大きなモノが、前へ出てくる。


 マウリ=ムルトマー男爵が作製をした、蒸気機関だ。

 怪力ヒト型鎧から進化をして、蒸気巨人一号と名が付けられたそれは、優に三メートルを越える。

 重量が重く。二足方向ができないようで、木製の車輪と足下に謎の人員がいる。


 原理は、蒸気をピストンへ送り、シャフトを突き出す。

 そのシャフトは車輪へつながり、前後運動を、回転運動へと変化させる。

 リンクを使った機械機構。


 足下の人間は、方向を決める運転手だろう。

 上半身はハルバードを振り回している。


 全体的な形は、人と言うより、アラクネーとか?

 いや、アダムスキー型ユーエフオーの上部に、ブリキのロボットが乗っている感じだろうか。まあ機乗型では、先を越されたな。


 ただ、燃焼効率を上げるため、背中に煙突がそびえ、水タンクと蒸気タンク。

 それが、外に剥き出しになっている。


 数は用意が出来なかったのか、三台。そして前にもって来ていた、トレビュシェットタイプの投石機が五台ある。


「隊長。先に投石機五台を狙ってくれ」

「分かりました」


 そうは、言っても勝手に始めるわけにはいかない。


 ここで戦争の宣言を、お互いに言い合う必要があるらしい。


「オリエンテム王国側が再三の警告にも従わず。我がパリブス王国へと攻撃を仕掛けた。おかげで、けが人が三名も出た。民への被害報告もある。こちらは死人も出ている。そちらの、オリエンテム王国。王であるアレクサンデル=オルムグレンに、責任を取ってもらおう」


「ふざけるな、侵攻するたびにこちらは死者多数だ。責任を取り賠償して貰おう」

「折り合わん様だな。では、武により決着を付けよう」


 そう言って、何故か俺は手を上げる。

 そう。さっき、相手との交渉をしたのは俺。

 俺が総大将らしい。


「神野様お見事ですが、名乗りを忘れたのと、口上途中で吹き出すのは、やめていただきたい」

「名乗り? そりゃ悪い。それと、そう言うがな。向こうは数百人レベルで死んでいるが此方は、けが人が三人。それも、階段を踏み外したとか、石を踏んで足首をぐねったとか、後は矢を運ぶときに、ほっぺを切ったとかだろ。相手に悪くてな」

 俺がそう言うと、伯爵がむっとした顔になる。


「それなら、最初から攻めてこなければいいのです。それに奴らのせいで、お仲間も亡くなったのでしょう?」

 忙しくて、忘れていた。


「そりゃそうだ」

 トルスティ=クレーモラ伯爵がそう言っているときに、もう一斉射が始まり。敵の投石機と奇妙なロボットが粉砕される。

 後部蒸気タンクが破裂して、オリエンテム王国側に、被害が随分でているようだが大丈夫だろうか?

 

「なっ何だあれは? どうやってあんな遠くから、あんな…… 威力が出せる?」

 自分の機械達が、身内を殺すのは気にしていないようだが、マウリ=ムルトマー男爵は敵である、気導鉄騎兵団が放つ二十ミリ弾に絶望をする。


 今の弾は、フルメタルジャケット弾。

 貫通力重視。

 だが、此方が少し低く、機械を撃ち抜く軌道だから良いが、平地なら後ろの兵達。命はないな。オリエンテム王国側は兵を下げなくても良いのか?

 

 そんな事を思っていると、下がり始めた。


 オリエンテム王国側は、ちょろっとだけ矢を放ったが、飛距離が全然足りていない。



「ええい。何か手はないのか?」

 吠えているのは、今の所。隊長を任されているライハラ=ポウタネン伯爵。

「ほんとうにねぇ。此方の武器は届かず、向こうから一方的に攻められる。やられるだけの受けも良いけれど、ちょっと悔しいわね」

 副官 プルック=プッリネン伯爵もぼやく。


 王の御前で言われた嫌み。

 軍務卿ヴィーチェスラフ=ネフヴァータル侯爵の、嫌みな顔が浮かぶ。


「とりあえず、何とかせねば奴が出てくる」

「ポウタネン伯爵。ここは、引きながら夜を待ち。闇に紛れて奇襲を行いましょう。幸い敵は少数でございます」

「そうだな、夜間作戦用に隊を二つ編制しろ」

「はい」

 そしてその夜。


 基本この世界の戦争は、夜間には戦闘が止まる。


 だが、日の暮れたとき、あきれかえるしかない物事が発生する。

 パリブス王国側野営地の周りに、あっという間に塹壕が掘られ。

 そこに奇妙な物が立てられる。

 低い唸る音。

 そして、外側に向けて昼間のような光が照される。


 回り込んできた、オリエンテム王国側兵達。

 切り払われた森から、姿を出しただけで、遊び感覚で足を射貫かれ、倒れ伏す。

 むろん距離は遠くない。

 だが助けに出れば、正確に撃たれる。

 それは陣の三方向で行われ、夜間の警備班が銃の練習に最適だったと、朝報告をしてきた。


 一日目は終わり。二日目が始まった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る