第33話 開戦

「実はな。四つくらいの貴族だが、男は奴隷に、女は楽しんでから奴隷にすると言っていてな」

 雄一が、なんだか呆れたように、報告をしてくる。


「ふーん。それはなかなか。とりあえず治療をして、明日また王城だな」

 オリエンテム王国へ、攻め込んだ奴らを追いかけるつもりだったが、上手く行かないものだな。



 その頃、攻め込んだ奴ら。


 砦から出た当初は、全開だったが、馬が疲れたため休憩中。まだ国境から五キロ程度。

 基本的に、王都までの道順は知っているため問題ないし、足を撃った敵兵で少し位の高そうな奴を捕まえてある。


 そう、舐めていたがために、物見遊山と戦場の経験として、貴族の子弟が参加をしていた。

 捕まった二人は、ガブリエル=シェンベラとシャルル=エモニエと素直に名乗り、両者とも男爵家長男だそうだ。


 ちょっと弾がかすっただけで、子鹿のようにぷるぷる震えて、投降をしてきた。


 休憩をしている内に、後続が追いついてくる。


 総勢は、それでもまだ三百程度。


 敵国に攻め入るには少人数。

 だが、奴らが来たときに王城へと鳥は放った。

 準備ができ次第、後続が出征を行うはずだ。


 トルスティ=クレーモラ伯爵も、自分たちが負けて武器が鹵獲される危険性は十分理解している。

 自分たちが使い、相手が虫けらのように死んでいく。

 そこには、少し前の戦闘とは違い。個人の武というモノは、一切影響をしない。

 それを成した武器。絶対に敵に与えてはならない。


 部隊がそろった所で、進軍を開始する。

 後続の到着と、相手の準備。

 時間の問題だが、あまり恐れてもいなかった。

 兵糧と弾薬さえ、きちんとあれば、無敵。


 その考えは、間違っておらず。


 今回の出征は、コンティニアス大陸において伝説となった。

 オリエンテム王国殲滅戦。滅亡の三日間戦争。


 この戦いで、パリブス王国は、眠れる獅子という二つ名を受けることになる。

 パリブス王国は、怒らせてはいけない。

 一度牙を剥けば、相手は滅ぶのみ。


 そんな伝説が出来た。


 オリエンテム王国側、死者数万。

 対してパリブス王国側は、奇襲を受けたときに、けが人は出たが死者はゼロ。

 周囲に塹壕を掘り、警戒をしていたおかげだ。


 そして新装備、ポータブル投光器。


 その威力は大きかった。

 リフレクター。つまり反射板を用いて、陣の外向けに向けてだけ、照らすことで、陣の状況は見えず、外からの敵ははっきり見える。


 そして、一気に兵を蹴散らし、逃げ込んだ兵を追いかけて、一気に城門を破った兵器。


 

 伝説の数週間前。

 裕樹は、激怒していた。

 謁見の間に呼び出した貴族達。

 その言い草を聞くと、はなから諦め。パリブス王国を売り払おうとしていた。


 当然、王もあきれ顔だ。

 今、王城の練兵場には、捕らえられた奴らが転がされている。

 中には、勇名を馳せた猛者も居たようだが、同様に陸へ上がったマグロ状態。


 まあ、怪我もあるし、しっかり手足は縛ってある。

 新開発のトラックが役に立った。

 そうは言っても、オート三輪かトゥクトゥクの様な簡単な物。


 当然貴族達の家は取り潰し。関係した家と関係者が、芋づる式に捕まり。王国で粛正の嵐が吹いた。


 当然そんな物は、王国の人間に任せて、今後自分たちに危害を加える奴らが来ればためらわず。皆殺しにすると宣言をしておく。むろん、粛正の発表に合わせて呼ばれた。貴族の前でだ。


 ここまでで、2週間以上。

 裕樹は焦る。


 意外と、この国では、移動に時間が掛かる。

 パリブス王国が狭いと言っても、貴族が馬車を飛ばして、やはり2週間近く掛かるのだ。


 道の整備と、車の開発か列車の開発を心に刻む。


 そうして、遅れたがやっと先行した部隊を追いかけ始める。


 戦車は、当然間に合わなかった。

 車体は出来たが、エンジンパワーが足りず動かない。

 無限軌道は、パワーがないと駄目なようだ。


 トルクとパワーアップ。

 電池と、発電機。そしてモーター。

 そして、スーパーチャージャーかターボを作らないと駄目だが、そんな職人芸。

 素人が簡単に作れるものではない。


 すべて、王が先走ったおかげで、準備が出来なかった。


 裕樹はそれを懸念して、焦っていたが、追いかけても追いかけても、心配をしていた殲滅された兵達は居ない。武器が強力でも、弓隊に包囲殲滅をされたらと危惧をしていたが、何もなかったようだ。


 道中、城門が壊れ。解放された街が幾箇所かと、なんだか歓迎ムードの村人達。

 何か美味いモノを食わせて貰い、懐柔されたようだ。


 パリブス王国が治め出せば、農地の収量は上がるし美味いものが食える。

 それに便利な道具が支給されると、どうも吹聴をしたらしい。


 言った以上、何とかはするが、勝手はやめてほしいものだ。


 追いかけて、追いかけて、舞台はオリエンテム王国王都前。


 数万の軍と、数千の軍が睨み合う寸前。


 到着次第、トルスティ=クレーモラ伯爵を探す。


 そこから伯爵を叱りつけ、陣地の設営と塹壕の整備。

 前にオリエンテムが使った移動式矢よけの盾を作製し、配備する。

 伯爵が言い訳した、王命と言う言葉を、笑いながら聞く。

「そうか。王がなぁ」

 王達も折檻の対象のようだ。


 そこまでで一週間。

 幸い、最初の一当てで、向こうがびびり、進軍をしてこない。

 此方も、道中は何故か安全が確保されて、兵糧は十分。


「さて、準備は出来たか。やるぞ」

 ゴタゴタあったが、やっと本格的な開戦が始まった。

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