第27話 佐々木 慶子、ラブストーリーは突然に

「初めて国外へ出たけれど、どこも田舎だし。野良野盗は出てくるし、散々ね」


 のんきなことを言っているが、慶子達はパリブス王国をすでに出て、メリディオナル王国へ行くために、オリエンテム王国を通過中であった。


 少し時は帰り、再び彼はやって来た。

「佐々木 慶子殿。あなたの仰る通り、我が家の愚行が原因でありました」

 そう言って会うなり、頭を下げるアルトゥロ=パチェコ男爵。


 再び顔を上げた彼の瞳には、わずかに涙が光る。

 再び王に対して、愚を犯さずに済んだ安堵と、それを指摘してくれた 慶子に、多少気持ちが高ぶったものである。


「まあまあ。それが分かれば良かったわ。お疲れでしょう」

 そう言って、慶子は自身の興味に、素直に従う。


 意外とこの世界の人、男も女も、外でだろうが肌を晒すのに禁忌感がない。

 道のすぐ脇。井戸の横で、綺麗な若いお姉さんが水浴びをしていたりする。


 ただ、興味。

 鍛え上がった、欧米系の人の体。

 今まで、父親とか秀明の体しか、まじまじと見たことがない。


 自分の記憶の中で構築された、王子様の裸。

 夢の中で、アルトゥロと秀明の絡みを、想像したことも幾度かある。


 現在、各家庭に設置されているお風呂。

 そこへ、速やかに案内し、慣れていないアルトゥロを、入浴の仕方を教えると言って自ら洗ってあげる。

「泡立たないわね」

 多少文句を言いながら、髪を洗い。お湯を掛けて流すとそこには、オス○ル様かライン○ルト様がいた。


「ふあっ」

 思わずのけぞってしまう。

 もろに、夢にまで見た王子様が目の前に。

 それも、警戒心もなく裸体を晒す。

 その体は、ダビデ像のよう。


 秀明との経験で、多少慣れてしまっていた慶子。

 舞い上がったことにより、これ以上は浮気という意識が吹っ飛んでしまった。

 ただ興味と欲望。つまり好奇心が、慶子を支配する。


 最初は確かに、欧米系の体がみたい。

 そんな知的好奇心だった。

 だが、結んでいた髪を下ろすと、どう見ても夢見た超美形の王子様。


 念入りに、体を洗い。疲れた体をマッサージしたりして、そのでろんとしたモノが多少おっきするところも見た。


 ついに、歯磨きまでしてあげて、どこかの嬢のよう。


 だがさすがに、慶子でも風呂場で襲ったりはしない。

 ゆっくり浸かって貰った後。間近で見ながら体を拭き、バスローブもどきを着せて、ダイニングへ案内をする。


 簡単な食事で、アルトゥロに褒められまくり、さらに舞い上がる。

 秀明は、当然あまり人を褒めるタイプではない。

 ところがアルトゥロは、慶子への感謝が基本にある。それは、気持ちの中で何十パーセントレベルで占めている。


 それが、会いに来た自分に対して、ねぎらい。さらに尽くしてくれた。

 当然評価は上がる。

 アルトゥロ達の回りは、狩猟民族特有の利己主義が多い。

 むろん女性もだ。


 こんなにも、愛おしむ様に自分に尽くしてくれる人は見たことがないし、前回の指摘により、非常に優れた女性であることは分かっている。


 飲まされている、日本酒の勢いもあり。

 アルトゥロが、慶子を求めたのは自然な姿だろう。


「慶子殿。私と国へ来て、妻となって頂けませんか?」

 慶子の手を取り、超美形王子様からの求婚。


 慶子は、とっさに頭の中で考える。


 行政関係、いける。

 アルトゥロの妻となり、知識チートで領地経営。

 領地を切り盛りして、王国内で成り上がり。

 どこかの、ラノベタイトルのような考えが頭に浮かぶ。


 その瞬間。秀明は慶子の頭の中でポイされて、過去の男という記憶の谷底へ突き落とされた。

 そう、同級生と初めての男というだけでは、王子様に勝てなかった。

 もともと、秀明は愛情表現が下手で、多少女性には色々してもらって当然。そんな思いを持つ男子。


 大体同棲をしてしばらくすると、世の男達は女性から、『私は召使いじゃない』と言う言葉を頂く。


 これは家で、お母さんが共稼ぎの忙しい中、旦那はどうでも良いが、子供達には手料理を食べさせたい。偏った栄養では駄目よ。

 そう言って頑張った姿を見せた結果、家庭では女の人が料理をして当然という価値観が出来上がる。

 それでなくても、数十年前には『男子厨房に入るべからず』と言う言葉が実践されていた。


 素直に、自分したことを褒め称え、あまつさえプロポーズ。


 彼女のことは、責められないだろう。


 彼女は、アルトゥロに握られた手に導かれ、唇を重ねた。

 ついでに体も。

 承認欲求と、知的興味を満足させる良い夜となった。


 さて、いざとなると、彼女自身がこの国のVIP。

 抜け出すのは容易ではない。


 アルトゥロの共と一緒に、夜半に逃亡を決行する。

 だが王都では、執拗なオリエンテム王国の間者により、夜間でも警戒はある。

 結果、王都から出るには、慶子の顔により、研究所へ行くだけ。護衛もいるし大丈夫と言って抜け出した。


 そこからは、大きく街道を外れ、山脈側へと迂回をする。

 道中で、狩猟をして飢えをしのぎ、夜間は、山賊や野盗達の火を避けるように道を急ぐ。


 それすらも、慶子の知的欲求を満足させる。


 経験値、爆上がり。

 そう考えて、一人喜んでいた。


 回りの兵達は、必死だったが。


 そうして、今。

 すっかり、周りを囲まれている状況。


 敵は、四方から我らを包囲しております。

 いかがなさいますか?

 そんな脳内アナウンスが、慶子の頭の中で流れていた。

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