第28話 軍師。佐々木 慶子爆誕

 先ずは、戦場全体を見る。


 うん。完璧に包囲されている。

 良いところは、大きめのガレ場と言うより、岩場になっていて、足をくじきそう。


 ここは、崩落後という感じね。


 囲まれているけれど、一点突破をして敵の隊列を引き延ばす。

 倒れた木や、岩がいい障害物になる。

 指示としては、弓の情報と包囲の薄いところや、ひ弱な敵の情報。


 その場でクルクル回りながら、情報を把握。


「アルトゥロ右前、弓」

 そう伝え、本人も場所を移動する。


「ホアキンさん。左後ろ敵」

「おお。済まねえ」

「ナタニエルさん、オスバルドさんと一緒に、前の三人を抜けば道が開く」

「分かった」

「ライムンドさん二人の後ろに、敵を来させないで」

「了解。おらあ、こっちだああぁ」


 そうして、包囲が崩れる。


「イデコさんの前に道が開いた。増税じゃない。敵が来る前に駆け抜けて。セルソさん。遊んでいないでフォローをして、もっと右」

「一杯一杯なんだよ、厳しいなあ」


「あっ。イデコさんそっちは駄目。あまく見えてもナタニエルさんとオスバルドさんの後ろ。両側に遊兵がいる。突っ込むと伏兵になってやられるわ。気を付けて」

「おおう。なかなか厳しいな」

「彼らには、私たちは敵なの。楽はさせてくれないわ。何とか頑張ろう」


 そうして何とか、イデコさんを先頭に、二番手をアルトゥロとセルソさんで鉾矢形(ほこやがた)陣形で抜ける。

 そして、鳥雲(ちょううん)へと変化し、囲みを破る。


 そのまま、鶴翼(かくよく)で向かい討ちながら、木のある方へと下がっていく。

 そうすれば、先にこちらの方が、足場が良くなる。


 マルセロさんとナタニエルさんが、比較的小さくなった石を拾い、投げつける。

 敵の足場はまだ岩場。

 他の人たちも、投げ始める。


 かなり効いたようで、徐々に彼らは下がっていった。

 今は、矢だけを警戒する。


 どのくらい経っただろう。

 緊張で、こめかみがズキズキする。


 敵はいなくなったようだ。

 木の隙間とかも見ながら警戒するが、後ろから声が掛かる。


「おつかれさん。敵は逃げたようだ。此方はかすり傷だが、向こうは十人以上重傷だろう」

「良かったわ。医療費も危険よね」


「はっ?」

「いえ、こちらの事。ついイデコさんの名前が気になって。奴らは甘い事を言っても絡め技で毟ろうとするの」

 彼女の考え込む姿に、イデコさんがねぎらってくれる。


「よくわからんが、大変だな」


「お疲れだな。助かったよ慶子」

 アルトゥロがハグをしてくる。

 激しい呼吸と汗。

 どれだけ大変だったが分かる。


 スポーツではない。掛かっているのは、プライドでもお金でも何でもない。自分たちの命。それが掛け金。

 見返りは、成功すれば、逃げられる。それだけ。


「敵は引いたが、いつ帰ってくるのか分からん。急ごう」

「そうだな」

 私たちは、森の中へ身を隠し、メリディオナル王国へと先を急いだ。



「なに? 魔性の女。佐々木 慶子殿がいなくなった?」

 いつの間に、二つ名がついた?

「ああ。そうだ。気がつくのが遅れた」

 王が考え込む。


「ううむ。悪いが、佐々木殿は、その…… 兵器に関して、どのくらい知っておるのだ?」

 まあ、王としては、気になるのはそこだろう。


 読んでいるジャンルは広いが、詳細は知らないだろうと、秀明から情報を貰った。

「大まかな形や仕組みは知っていても、詳細までは知らないだろうということだ」

「そう…… そうか。だが、行き先はメリディオナル王国だと」

「そうだな。一度、売ってくれと話が来たんだったか?」

「そうだ」


 じゃあ、あれかな、クロスボウくらいは作るかもな。

 男の武勲のために。

「簡単な仕組みの物は、作られるかもな」

「何? どれの事だ?」

「クロスボウ。ひょっとしたらコンパウンドもやばいかな。でも、火薬が何とかなれば、もう銃の世界へ移行する。気を付けるのは一緒だ。防弾のジャケットを作るようにしよう。それと、トルクの増強にモーターアシスト付きの戦車を開発中だ」

 戦車と呼んでいるが、実際は装甲車で発砲用の穴が開いている車。


 一応、適当な情報を降ろし、王達を安心させる。



 一方。何とか領内へたどり着いた慶子達だったが、彼の家人達の見る目は厳しかった。

 調べた真実は、ねつ造だと頑なに信じている。

 親の世代にしても、子供の頃から信じていた話。彼らにとっての真実であり悲願。

 それが、全くもって違うと言われても、信じられる話ではない。


 だが、生活の不便さも、まずい食事も愛のある生活に舞い上がった慶子には苦にならなかった。


 ガンガン発言し、生活を改善していく。

 みんなが、パリブス王国に来てやったように、上下水道の設置と、モルタルの開発。

 高炉の設計と、コークスの作製。

 それと肥料。


 硝石が採れるはず。

 床下での硝石作製。白川郷をはじめ日本には床下で硝石を作っていた隠里が点在している。忍者は、ヨモギに小便をかけ、土壌を改良し発酵に適した土壌を作った。


 そんな知識は、基本である。


 し尿や排水の浄化。

 バクテリアを有効化するため、水車によるエアレーションの実践。


 水場がなければ、風車を用いる。

 むろん垂直軸型マグナス式。微風から強風にまで対応できる。


 マグナス力は回転物の周囲で気圧の変化を起こす。

 流水の中で、右回転をしている棒があるとして、回転方向が流れと同じ方向にひかれる特性が出る。上方から見ると時計方向に棒が回転し十二時方向から水が来れば、三時方向は水と回転が同じ。逆に九時方向だと、流れと回転が逆になる。


 この場合は、マグナス力は三時方向に発生して、引っ張られる。

 これを利用した、風車が慶子により作られた。

 風向きが急に変わっても、対応ができる優れもの。


 愛の力で本気になった慶子は、意外とすごい子だった。

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