第26話 情報の重要さ

「敵は何か大きな音がする杖を持ち、つぶてを撃ち出しているようです」

 鏃(やじり)のようなものを、兵から献上される。


「これは? 錫か鉛か?」

「若干溶ける温度が低く、重いので鉛のようでございます」

「ううむ。奴らは次から次へと、一体なんじゃ」

「今それの謎も、マウリ=ムルトマー男爵が、解明をしようとしております。しばしお待ちを」


「よくもまあ、次から次へと」

 男爵も頭を抱える。


「パーンとか、ダーンと言う音らしく、つぶてが飛んでくる」

 そう言って、手に持ったつぶてを木の板に投げる。


 だが、思いっきり投げても、カンといい音がして跳ね返るだけ。

「はっ? 跳ね返るじゃないか? 敵は金属の鎧を撃ち抜いたんだぞ?」

 彼のマシンは、鋳物で鎧を作り。厚みなら五ミリもあった。

 最初は十ミリ程度だったが、重くて話にならなかった。


 そして、苦心の末、五ミリにしたが、あっさりと撃ち抜かれたと報告が来た。


 そう、彼らの使う鉄は、比較的純度が高い。さびにくいので好まれている。

 それを熱した状態から、冷やして終わり。それがこの世界の常識。

 焼なましなどの熱による強度変化は、一部の工房の秘伝として知られているのみである。


「ううむ。このつぶては飛んできた本物。ではどうやって?」

 さすがに、思いつきで火薬は作れない。


 だが、彼は蒸気タンクのバルブを一気に開き、弾を飛ばすことを考えついた。

 基本原理は、パスカルの原理。

 大きなピストンがあるタンクへ蒸気を一気に入れると、蒸気は大きなピストンを押す。管で繋がった、小さなピストンは高速で弾を押し出す。

 うーむ。万能の働き。湯気は素晴らしい。



 彼が、高笑いをしている頃。

 誰かが、カルストではないかと言っていたが、熱水鉱床の跡が有り、山脈側ではプレートのおかげか、現役の熱水鉱床もあった。当然温泉も発見をした。

そして、そこで様々な鉱物。中でもクロムやモリブデンを発見していた。


 いま、パリブス王国側では、伝説のクロモリが、造られようとしていた。

 さらに、クロムを入れればクロム系ステンレスが造ることができる。クロムが鉄表面に不動態皮膜と呼ばれる、酸化皮膜を作りさびにくくなる。


 むろんさびとは、赤茶けた色をしている酸化第二鉄のことである。


「ふはは。ついにクロモリだ」

 実はクロモリと言っても、中に混ざっている元素は、シリコンやらリンやらマンガンやら色々が、コンマ数パーセント入っている。

 当然高校生は、そんな数字は知らない。自転車が好きな奴が、4130クロモリフレームという番号を覚えていたくらい。


 しばらく頭を突き合わせ考えていたが、希少金属はわずかで効く。

 誰かがそう言って、少しだけ加え、後は焼きで何とかしようと話になった。


 クロモリは、浸炭により表面硬化する。浸炭処理した鋼を焼入れすれば、浸炭層はマルテンサイトになるため、耐摩耗性が著しく向上し、内部の非浸炭個所は硬化しないためネバリ強い。マルテンサイトは浸炭処理した鋼を焼き入れした際に生じる針状または板状の組織形態。走査型電子顕微鏡でみると、でこぼこしている。

 車のピストンにも使われたりする金属だ。


 さて適当に造ったが、以外と強く、フレームから作り直した。

 

 現在。彼らは溶接、それもアセチレンが使える。


 燃料用に、石炭はあった。

 石炭を蒸し焼きにして、コークスを作り、生石灰と混ぜて釜の中で二千度近くまで上げる。

 すると窒素と反応して炭化カルシウムが出来上がる。これを筒に入れて、水を加えるとアセチレンガスが発生する。

 そのため、今ガス灯が急速に設置されている。

 ここへ来て、酸素が欲しくなり、再び過酸化水素水が欲しいと騒ぎだした。


 そのため、急ピッチで発電機を造っている。きっと、誰かが。



「ようし。とりあえず、小銃とハンドガン。後は弾と火薬。これは化学部次第だな。学校の勉強を、もっとやっとけばよかったよ」

「確かに。意外と使えるのがびっくりだ」

 秀明がうむうむと頷く。


 こいつ、ミステリー研を宰相に紹介して、手柄を立てたはずなのに。どうしてこんな所でくすぶっているんだ? 気になるが、手は足りない。まあいいか。


「だが、どうだ? 日本じゃほとんど使わないぞ」

「まあ。そうだな。学校のコースで、異世界転生科。剣と武術コースとかさ、知識チート行政コースとか、化学コースとかあればよくないか?」

「今なら、通うな」

「確かに」

 そう言って笑う。


 だが、その横顔には無理があり、辛そうなのが分かる。


「お前どうしたんだ? 最近ミステリー研と離れているだろう」

 俺がそう言うと、ぐっという感じで辛そうな顔になる。


「あー。誰にも言うなよ」

 大体相手がこう言ったときには、言いふらせだよな。


「ああ。もちろん」

 キリッとシリアス顔でサムズアップを決める。俺はウインクができる。


「慶子が、王子様に気に入られて、付いていった」

「はっ? 王子様?」

「そうだ」

 うーむ。ここの王子様は、確か婚約者がいたはず。王子が三人。王女が三人。

 第一王子と、第二王子は同じ歳。王妃と側室が同じ歳に男子を産んだ。

 意地だよな。

 そして、第三王子も側室のエーヴァさんが産んだ。


 王妃のディオーナさんが三十五歳で、側室のエーヴァさんが三十四歳だったよな。


「王子には、婚約者がいただろ?」

「だって奴が……」


 要点を得ない秀明からの言葉。

 王子様という言葉に騙されて、その時。付いていったの意味を俺は、深く考えなかった。

 まさか相手が、他国。メリディオナルだったとは。

 当然、ミステリー研だけの問題ではなくなる。


 俺は誰にも言うなと言う言葉を守り、山本が振られたらしいを枕詞に、佐々木 慶子のことをみんなに聞いて回った。

 そして、メリディオナル王国のアルトゥロ=パチェコ男爵という奴にじゃれつかれていたと話を聞く。

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