第25話 無慈悲な攻撃。再び

「何だ、この筒は?」

 何を思わず、要塞の隊長トルスティ=クレーモラ伯爵は、筒を覗き込む。


「馬鹿野郎。覗くな。そして、絶対に人へ向けるな」

「はっ」

 反射的に、敬礼をする。


 彼がここの要塞で最上位、だが裕樹は、現在侯爵を持つ上官である。

「これは、強力な武器だ。特にこの大きな方は、人間など一発で壊れる。此方側に弾。これだ。これをマガジンと呼ばれるケースに収め、自動的に送り出す」

 そう説明しながら、弾をマガジンに詰めていく。


「今はまだ、性能が低く、マガジンには十発のみ入る。そのため兵は二列になり、先頭が弾を撃ち尽くせば、場所を入れ替わり銃を冷やしてくれ。これは、材料が何とかなれば、もう少しましになる予定だ」


 そうして、説明をしながら銃を分解し始める。


 ネジは使っておらず、スライドやバレル、ロッキングブロック、リコイルスプリングといった部品をフレームから分離できるように造ってある。

 みんなが苦労した結果だ。ほぼ楔で止めてある。スライドするだけでロックが外れる。けして、ネジの加工精度が低くて、統一規格のものが造れなかったわけではない。むっちゃ歩留まりは悪いが。


 あー。そのため今、旋盤を作製中だ。


 旋盤を造って、それを使って、さらに旋盤を造ることで精度が上がる。

 フライス盤も目下作製中で、あれができれば、面研。つまりものの表面を真っ直ぐ削ることができる。

 ちなみに、旋盤は物を回転させて、丸く削ることが出来る。つまりネジや、プーリーというベルトを掛けて回す車輪を造ることができる。


 いまは、すべてカンだ。

 指先センサーを総動員。

 銃身のライフリングなど、よく加工できたと思うよ。


「さて、こうやって分解ができる。使ったら必ず。いいか。必ず分解をして、掃除をすること。この金色部分に、弾を飛ばすための薬品が入っているが、どうしても現在のものは燃えたカスが出る。こいつが溜まると、撃ったときに詰まる。分かったな」

 専用のブラシとかも出していく。


「そして、ゆがみとかが出た銃は、持って帰って、俺達の研究所へ送り返せ。けして敵中に置いてくるな。分かったな」

 それだけで、どういう事かを、その場に居たものは理解する。

 壊れた状況を研究し、次回に繋げる。

 今までも、特殊な事例の時は報告をした。


「よし、それじゃあ。兵を集めろ。もう一度、使い方の説明と実際に使う所を見せる」


 そうして、パリブス王国側の、要塞練兵場に巻き藁が立てられる。


 各兵が、十人ずつ一列に並び、横に二十人。

 この前火薬をと、言ったときには、すでに七十丁を超えた銃が出来上がっていた。


 『どうせすぐに必要になるさ。そう思って、造っていたんだ』工作が好きな嶋田 光朔(しまだ こうさく)がニコッと笑い。サムズアップをした。ウインクはできないようだ。そっと唇の端があがる。


「良いか、絶対銃口は覗かない。そして敵では無い人間にも向けないこと。不具合が出たときには、マガジンを抜き。チャンバーから弾を排出すること。その時でも銃口は人に向けない。分かったな。ではマガジンを取り付け、コッキングレバーを引いて弾倉へ弾を送る。そして狙いを付けて引き金を引く。それだけだ。大まかな狙いは、銃身の上に付けられた照準器で付ける、覗き込んで見えたものにあたる。では、構えー。――撃て」

 その瞬間に、ダーンと音が響き。撃った者達、自身が驚く。


 そして、離れた所では、また新たな音に偵察の兵達数人が驚く。

「また、違う音がし始めた。前よりも、もっと大きく響く。一体今度は何を造ったのだ?」

 そして伝令は、馬に飛び乗ると、ひた走る。


「また、何か大きな音がするものを、敵が使用しています」

「それは、何だ?」

「分かりません」

「それを。調べんかぁ」

「はいぃ」

 そんな喜劇が、ちょっと起こった。


 そして…… やっとできた。

「思ったよりも大きくなったが、これで良いはず」

 ただ、力が必要がないときに、安全弁から蒸気が抜ける。

 これがどうにも、ヒョロヒョロと情けない音を立てる。


「ううむ。音がなあ」

 だが付けねば、タンクの限界を超えて爆発する。

 彼はすでに実証済み。

 屋敷の壁を壊した。


 その威力を見て、何か武器に使えないかと考えたくらいである。

 マウリ=ムルトマー男爵作。怪力ヒト型鎧。初号機。

 背中では、火が燃やされているため、断熱に苦労をした。

 だが、それでも。着込んで十分もすれば、中は蒸し風呂となる。


 確かに力はある。機械としては成功だろう。

 ただ、タンクへ水を入れ、薪をくべ。圧力が上がるまで時間が掛かる。

 そして、重い。

 この重さは想像以上で、一般の荷車では車軸が折れる。

 そのため、防御用の鎧は、運搬時には、外していく。


 つまり、準備にものすごく時間が掛かる。

 彼が、水蒸気から圧縮空気に行き着くまで、どのくらいの時間が掛かるだろうか?

 ここへ来て、オリエンテム王国に現れた一人の天才と、知識を持った集団との追いかけっこが始まる。だが、その差はとても大きく。無慈悲である。


 どこかの誰かが、向かって来ている敵の鎧に向かい。ぼそっと言う。

『兵器開発か。見よう見まねですごいが。これって、戦争なのよね。悪く思うなよ』


 彼の力作を着込み、熱いのを我慢した兵は、無慈悲な二十ミリ砲の前にあえなく散った。

 当然彼の力作は、早々に鹵獲(ろかく)され、パリブス王国側へ持って行かれて、研究所に送られた。

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