第18話 迷彩色の悪魔

 そんなコントのような戦場に、奴らが派遣されてきた。

 現在、一二機で。

 東西の要塞へ三機ずつと、北の要塞へ二機ずつ。

 王都に二機と、量産中のものが複数台。


 その中に、赤い角が生えた実験機が二台。

 効率は悪いが、各部で円盤が回っていて、移動時に一瞬クラッチが繋がる。

 速度優先型。

 体が軋むし、限界以上で体を動かすため、筋断裂を起こしそうで怖い。


 これ以上を求めるなら、アシストではなく、操作型ロボットじゃないと駄目だとなったが、パイロットが中でシェイクされるのが想像できる。


 そのため、現行型をちょっとだけ強化して、次は戦車の開発に着手することになった。



 そんな王国内の都合はどうでも良く、今実際の相手。オリエンテム王国側から見ると音と大きさ、不気味な塗装と赤く光る目。

 そして、凶悪そうなハルバードが、いやでも目を引く。



「モンストシニョス侯爵。敵側に何か現れました」

「何かとは何だ?」

「見たことがないものです」

 狭いテントの中で、紅茶をすすっていた侯爵だが、その言い草にカチンときたようで、外へ出て行く。


「ええぃ。情報はきちんと伝えろ」

 そして、自分で確認し一言。


「何だあれは?」

 言い表す言葉を、本人も思い浮かばなかった。


「さて、何でしょう?」

「ううぬ。一当てをしてみろ」

「あれにですか?」

「あれにだ」

「はっ」


 どうやら侯爵も、あれに対応する言葉が、見つからなかったようだ。

「騒がしい鎧に向かい。一当てするぞ」

「本気ですか?」

「ああ。ご命令だ」

 そう言って、背後のテントをちらっと見る。


「手を出すと、やばそうな気がするのですが」

「そうだな。引きつけて、この方向から、矢を一斉射。すぐに逃げろ」

「そんな。矢など…… ああ。なるほど。この方向からですね」

 言いかけて、何かに気がついたようだ。


「そうだ、効くか効かないかは関係ない。面倒の排除だ」

「分かりました」

 そう言って、部隊長は走っていく。


 やがて、瓦礫の後ろに弓兵がそろう。

 場所は、きちんと理解がされたようで、街道と弓兵。

 その背後には、偉そうな怒鳴り声が聞こえるテント。

 一直線に、並ぶ位置。


 一当てしてみるか。そんな感じで、一機が来た。

 もう一台は、少し距離を置きやってくる。


 そして、後ろ側の一台は、離れた所で弓を構えた。


 やがて先頭の一台が、街道上に放置をされている、燃え残りの台車へとたどり着く。すると、それらを、強引に脇へ寄せる。

「おお。大弓の威力はすげえな」

 現場を見た兵は、その悲惨さに驚く。まともに当たった者は、まともな形をしていない。


「こんなのでよく、攻めてこられたものだ」

 そう言って、ぽいぽいと道の端へ、ジャマなものをすべて寄せる。


 その行為は、敵の領土へ入っても続く。


 やがて、カンと乾いた音がして機体に何かがあたる。

 視線を上げてよく見ると、敵側の拠点であった要塞の瓦礫。

 その向こうから、ひょこっと兵が現れては矢を放つ。


 荷車を縫い止めてあった大弓の矢を引き抜くと、そちらの方へひょいっと投げる。

 矢を射ようと、顔を出した兵のすぐ横をものすごい勢いで矢が抜ける。

 もう少し横に居れば、首が落とされるところだった。

 安定翼が石をかすめ、チュイーンと奇妙な音を立てる。


 そして、見事にテントを射貫く。


 侯爵は、意味が分からなかった。

 椅子にふんぞり返り、紅茶をすすっていた。

 なぜかすぐ脇を、何かが通り過ぎた。

 それは分かった。


 問題は、軽く右腕の上腕。肩との中間辺りを、細い棒か何かでたたかれたような感じがした。

「うん?」

 何だ? そう思い。右腕の方へ視線を向けると、口元からカップが、腕ごと落ちていった。

「はっ」

 どう言っても、戦闘中であるため。革鎧は装備をしていた。


 だがそんなもの、意味が無かったようだ。

 黒光りをする、刃が付いた槍のようなものが、視線の先に刺さっている。

 

 腕からは、堰を切ったように血が噴き出し始める。


「だれか、誰かおらんかぁ?」

 侯爵は、叫ぶ。


 だが、路上清掃を後回しにして、駆けつけたのは気導鉄騎兵団。

 テントの中を、赤い目が覗き込む。


「服の感じからすると、偉い奴のようだな」

 周りの布を巻き込みながら、ハルバードが振り抜かれる。

 必要の無い胴体は残し、首だけが布に包まれる。


 そして攻撃が来ると面倒なので、周りを見ると、誰も居なかった。

 至る所で、声が聞こえる。

「侯爵がやられた。撤退だぁ。撤退をしろ」


 鳴り物入りで盛大にきて、一日で撤退。

 これで、オリエンテム王国の政権交代へと続く序章。火の一夜が終了をした。


 報告では、パリブス王国は赤い一つ目の巨人兵を使役している。

 その強さは、兵一〇人分に匹敵。そんな情報が持ち帰られた。


 当然、王アレクサンデル=オルムグレンは、憤慨する。

 訳の分からない情報と、モンストシニョス侯爵の死。

 前回から、報告されるのはまともだとは思えない事ばかり。

 数百減っただけで、丸々帰ってきた軍。


 戦闘でも力が拮抗をしていれば、双方兵をつぎ込み、消耗戦となっていくが、一方的な虐殺では逃げるしかない。


 それが、今の状況である。

 だが、王からすると理解ができない。

「少しあたっただけで、逃げ帰るとはどういうことだ」

 王からの叱責が飛ぶ。

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