第13話 つかの間の平和

「おかしい。エンジンが動いた」

 あれほど苦労していた、バンケル型エンジンに火が入った。


 構造は、ツーローター。合成排気量が千シーシー。相当する型番は10Aだろうか? 大昔サバンナRX3などに搭載をされていた。


 今回造ったのは、ポートがハウジングに開けられている、ペリフェラルタイプ。

 サイドポートタイプは、文字通りサイドカバーに穴が開いている。


 動かなかったのは、仕上げ精度と組むときの圧力。

 構造上、あまりシビアに作り組み付けると、サイドから押されて負荷が掛かり、ローターが回らない。

 トルクレンチが無いため、きっちりと力で組むと両脇から掛かる圧が強すぎることがある。


「何でも良いじゃ無いか。動いたんだし」

「馬鹿。再現性がないと困るだろうが」

 燃料はアルコール。青白い炎は見えにくくて危ない。


 今まで、動かなかったために、燃料の管理がいい加減になっていた。

 マフラーからの炎が引火をする。


「うわっちゃ。燃えてる。水」

「馬鹿。水は駄目だ。毛布か何かで密閉をしろ」


 最後に失敗はしたが、文字通り火はついた。

 これで、動力として使える。

 裕樹たちは、機嫌良く家へと帰る。


「ただいま」

「お帰りぃ」

 美咲が自作の、花柄エプロンを着けて出てくる。


「どうしたの? 前髪と、眉毛が片一方無いよ」

「ああ。エンジンは回ったが、ボヤが出て、消していたら眉毛が燃えた」

「危ないなあ」

「風呂へ行くよ」

 そう言って、風呂へ向かう。


 まだ、色々が整っていない王国。


 裕樹の向かう、浴室。湯船の中には、何かが居た。


「よっと。ろうそくだと今イチ暗いな」

 棚の上に、ろうそくを立てた皿を置く。


 すると、浴槽の中に爛々と輝く目が二つ。

「あっ悪い、入っていたのか。ろうそく位つけろよ」

 驚きもせず、文句を言う。


 中に居たのは、後藤千尋。つまりそういう仲である。


 城へ最初に来たときは、女子部屋で固まっていたが、裕樹が城を出て、高炉の近くに家を建てたとき、お風呂があることを理由に転がり込んできた。

 造りは日本家屋風。だが、パネル工法。簡単で丈夫。建築日数も短い。

 瓦も適当に焼いた。


 この家に来るとき、美咲は相変わらず、見栄を張ってうじうじしていたが、周りにはバレバレだったので後藤千尋が背中を押す。

 めぐみや亜弓も一緒に来た。


 むろんこの家、樋口雄一も住んでいる。そして、同室だった松井聡もすんでいるが、いまは、二人とも中州にある研究所へ行っている。めぐみや亜弓も追いかけて一緒に行っている。落ち着くところに落ち着いた。

 なので、今日帰ってくるのは、裕樹と千尋。そして、美咲。


 せっかく家に転がり込んだのに、変な意地を張っているうちに、千尋が裕樹を襲う。

 初めての時は、裕樹が寝ぼけ。美咲だと思って、手を出した。

 途中で顔を見て、千尋だと気がつき、大騒ぎになった。

「うわ。お前なんで?」

「馬鹿なの? 好きだからに決まっているじゃん。手を出してくれないからきたの。とりあえず最後までして。それと、責任は取るよね。裕樹」

「あーそうだな。今更か」

 彼女の見え見えの気持ちは分かっていた。でも。である。


 俺みたいな人間を好きになってくれるのは嬉しいが、気持ちはやはり美咲が好き。

 それは本当だ。告白をして振られたが、あれは嘘だ。

 あいつは何かでへそを曲げた。実際男の影など一切見ていない。

 此方に来てからも、残してきて離れたなら落ち込むはずだが、それも無いし、こっちに来たのならもっと分かりやすい。

 そんなことを言いながら、諦めつつ、体は動く。


 微妙に、変なことを考えているせいで、長持ちもするし、初めてなのに千尋が感じ始めることになる。


 騒ぎを聞きつけて、部屋に飛び込み。

 その光景を見て、美咲は怒るでも飛び出すでもなく。

 力なくへたり込むと、いきなり号泣をする。


 ここへ来て、私が拒否をすると、裕樹は別の女とくっつく。

 初めてそれを理解した。

 そして、美咲は自分の気持ちに素直になった。裕樹が好き。人に渡したくない。


「彼氏がいるって嘘なの。告白されたとき。おまえ育ったなって言われて、むかっときて、意地になって。むきになって。でもでも、やっぱり裕ちゃんが好きなのぉ」

 呆然としている、裕樹をほったらかし、千尋が上手く丸め込む。

「もう。やっぱり。見え見えだったし。おいで、二人で分けよう」


 他に男がいると、幾度も振った手前。千尋と裕樹に謝り、混ぜて貰う。


 逆に言えば、裕樹を思っていた千尋は、美咲の意地っ張りに助けられ、本来入り込めない隙間に入り込んだ。


 まあ、そんな状態を見ていた、めぐみや亜弓は、雄一と聡それぞれとくっ付いた。


 此方に来たばかりなら、こういう関係に嫌悪感もあっただろうが、いつ死ぬかもしれない危険と、来た瞬間から、『ハーレム王に俺はなる』そう言って暴走したやつが幾人かいて、少しならされた。


 微妙な牽制と、振られて失う恐怖よりは仲良くしよう。そんな微妙なバランス。


「あっずるい。二人で入ったの?」

「違う。風呂へ入ったら湯船の中にこいつが潜んでいた」

「いんやぁ、私お風呂入ってた。あとから、裕樹来た。堪能するしかないと、我思った」

「何だよその言葉。おかげでおまえ、のぼせていたじゃないか」

「いやあ。まあ、ろうそくの雰囲気って独特だから、つい体が反応しちゃって、出るのがちょっと恥ずかしかったのよ」


「ふふっ、千尋ちゃんて敏感だから」

 笑いながら、ろうそくの燭台での食事。

 ここに来て、色々ものが増えた。


「大豆がやっぱり大きいよな」

「そうそれと、海産物。鰹節とわかめと昆布。後ホタテやなんかの乾物も良い味よね」

「後は生け簀だろ。多少は味が落ちるが、生きの良さでは全然違う」

「そうね。流通に時間が掛かるから」

 そう言ったのは、千尋。それを聞いて、聞きたての情報で美咲はマウントを取りに行く。


「ところが、エンジンが出来たのよね。流通革命ぃ」

「えっ。できたの?」

「ああ、まだ無事に掛かっただけ。他国だが、レールを引かせて貰って、蒸気機関の方が簡単かもしれないが」

 考えている計画の一つ。国同士の話し合いさえすめば、そっちが簡単だ。


「えー車が良いよ。ドライブ行きたい」

「じゃあその前に、道路整備だな。途中は獣道が結構多いからな」

「ふわっ。先は長いのね」

「終戦が1945年で、それから何十年もしないうちに、今とほとんど変わらない日本になった。以外とすぐだろ」

「じゃあ期待しよう。子供達の世代なら、安全になっているかしら?」

「そうしたいな」

 和気藹々とした、食事。

 二人とも、日本のことを思いだし。さみしがる時間が減ってきたようだ。


「頑張って暮らしを良くしよう」

「「うん」」

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