第12話 枝葉末節
「どいつもこいつも、必死になって、うぜぇー」
こっちで好まれている葉巻を咥えて、うだうだと言っている三人。
「どうせ異世界なら、ぱあーっとチート能力をくれりゃ良かったのに」
「そうだな。強力な催眠とかさぁ」
敏明がそう言うと、皆が、うひゃうひゃと下品に笑う。
「おまえ、下心がダダ漏れだぞ」
「良いじゃねえか、向こうじゃキャーキャー言ってた奴らも、今じゃおれらを見向きもしねえし、強引にと思ったら、皆ナイフ持ってやがるし、剣術と体術だっけ? 習っているしさ」
「いい加減、皆強くなって、やべーよなあ」
日々やる気も無く、だべっている。
青木 幸裕 (あおき ゆきひろ)、三沢 拓也(みさわ たくや)、大木 敏明 (おおき としあき)。
先日。町中で、女の子を相手に騒動を起こして謹慎中。
適当な子をつかまえて、欲求を晴らそうとした。
本来謹慎中なので、こんな町中にいてはいけないのに、彼らは抜け出してこの状態。
最近、黒髪黒目は、王都では憧れの存在となっている。
この三人でも、基礎勉強では、この世界の住人を凌駕している。
四則演算が出来るだけで、本来なら引く手あまたである。
だが、彼らは動かない。
王都住民から、すでに外れとして認識をされている所にまで、落ちてしまった。
彼らは、他のクラスメート達とは違い、こだわりのように未だに制服を着ている。
此方の、服はダサい。
そんなこだわり。
だが、町中でその姿は目立ち、浮いている。日本にいるときは、目立つのが基本だった。何でも良い、騒ごうが馬鹿をしようが目立ちたかった。
当然だが、この世界。目立つのはものすごく危険。結局、それが彼らを、破滅へと導いた。
し尿回収の大樽を乗せた荷車が、彼らの前を通り過ぎる。
町中の上下水道整備は、大分進んでいるが、まだ完璧ではない。
そのため、いくつか同様の荷車は町を回っている。
彼らが、消えたことに気がつく人がいなかった。
それは、彼らの普段からの罪過。
数日後、川のそばで遺体となって発見された三人。
この世界に来て、初めての被害者となった。
「犯人を捜せ」
王が厳しい口調で、命令を出す。
「まさか、王都でこのような」
宰相も悔しがる。
だが、意外なことに、クラスメートの大部分は冷めていた。
「へーそうなんだぁ。まあ、仕方ないっしょ」
「どこかの女に手を出して、旦那に殺されたのかぁ?」
「日本と違うのだよ。日本とは」
そんな意見が多かった。
「あー。駄目なやつだったけど、向こうに居たときには、なんか好きだったんだけどなぁ」
「そうそう。でも、実社会というか。こっちへ来たら、奴らの愚痴が軽くって」
「そうね。ガキの言い訳にしか、聞こえなかったよね」
「面倒だから、理屈を見つけてごねる?」
「ああ。そんな感じぃ」
「でも死ぬのは、かわいそうだね」
「まあ、ちょっとね」
一応、城壁の外だが、専用の墓地を王が用意してくれた。
獣に掘り返されないように、壁で囲まれた一区画。
墓など皆掘ったことは無いが、三メートル以上は必死で掘り、手作りのお棺を収める。この深さは、日本での規定だそうだ。小説を書いている奴がいて、覚えていた。
土を皆でかぶせて、上に川から拾ってきた平らな石をのせる。
二日から三日後。もう一度土を盛り直し、また土が沈んだら土をかぶせるという作業が必要だそうだ。
適当に、手を合わせて拝む。
ここまで来ると、心ではどう思っていても、周りからすすり泣きが聞こえ始める。
身近な人が死んだ。それも、かなりひどい暴行の跡があった。
ここは危険だ。命が軽い。その事を皆が再認識をする。
「欲しかったのは、情報だろうな」
「ああ。そうだと思う。女の子達には、兵をつけるようにした。男達は必ず幾人かでつるむことと、武器の携帯。特に、暗器のナイフを隠し持たせてある」
「ああ。手首をひねると飛び出るあれか」
「そうだよ。最初単なる棒状のやつを作ったら、女子に引かれたからな」
この会話。同級生ではなく、裕樹と王の会話。
王は、裕樹達。特に主となり行動している者達に、敬語禁止と、謁見の自由。
そして、国のためならば、特段許可無く製作可の許可を与えた。
貴族達幾人かから、否定的な意見が出たが、同程度の功績あらば、お前達にも同様の許可を出そう。それを、正式に布告をしたら収まった。
あまり国内での敵は作りたくないが、王からすると、敵がはっきりしている方が管理しやすいらしい。
まあそれも、理解はできる理屈だ。
「何? 情報が無かっただと。口が堅かったのか?」
「いえ。あれは、全く知らなかったようでございます」
そう答えると、考え込む。
「ふむ。情報秘匿のために、担当人員を分けてあるのかもしれぬ。用心深いことだ。知れたことは?」
聞かれて考え込む、担当者。
「自分たちは、異世界召喚をされて、こっちに来たのにチートが無かったと」
「異世界召喚とは何だ?」
「話からすると、どこか別の所から、呼ばれたそうです」
ふむ。何か独特の言い回しか?
「チートとは?」
「何やら、人外がどうとか言っておりましたが、皆目。そして、この者達。言葉が今イチ不自由であった様子」
そう言われて、宰相はどこか余所の大陸では違う言葉をしゃべる者達がいると、聞いた覚えがあることを思い出す。
だが、今現在、他の大陸とは国交が無い。
「ふむ。同じような格好で黒髪黒目は目立つため、情報かく乱の要員だったようだな。少し前まで、こぞって情報を売りに来ておったのに。一体何があったのだ。短期間でまるっきり違う国へとなったようだ。ええい面倒なこと。適当に次の者達を見繕え」
「はっ。しかし、いきなり警戒度が上がりまして、少し難しゅうございます」
「相手の思うとおりか。はめられたのう」
「はっ。町中で隙を見せ、のんきにしていたのを、警戒すべきでした」
「まあいい。せめて構造だけでも、わかれば良いのだが」
実は、大木敏明は構造を知っていて、担当者に説明をしていた。
「だから、コンパウンドのデュアルカムだか、ハイブリッドで、引くときの比率でストリングスの引きと、引き切ったときのストリングス負荷を軽減をするんだよ」
彼は説明が下手だった。
動滑車の原理で説明をすれば、もう少し理解できたかもしれない。
そして彼の話す多くの言葉が、此方には無かったため、そのまま伝えられた様だ。
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