第10話 一歩一歩着実に

「ようし、出来たぞ」


 川の中州で作られていた研究。

 酒とみりん、味噌、醤油が、先ずできあがった。


 酒は、一部を蒸留し、今開発をされている内燃機関へと回る。

 燃料用アルコール用には、毒があって食べられない根菜や木の実などもテストをされている。デンプンさえあれば、何でも試す。


 その頃、エンジン班。

「畜生。うまく行かない」

「ロータリーの方が、簡単だと言ったのは誰だよ」

 そう、彼らは、バンケル型エンジンが、様々な燃料に対して、意外と万能だという記事を誰かが覚えていて、開発に着手をした。


 だが、高校生の集まり。そう簡単には成功などしない。


「この頂点部。アペックスシールだっけ? こいつが何故か吹っ飛ぶんだよ」

「俺が読んだ記憶だと、カーボンか何か使っていた」

 そんな話が交わされる。


「構造が簡単な、二サイクルとかはどうだ? 草刈り機とか、ラジコンとかむっちゃ簡単な作りだったぞ」

「あーそうだな。キャブとエンジンそれと点火プラグだけだったよな」

「点火タイミングは、クランクシャフトから、取り出して、デストリビューターだったっけ。あれで行こう」

「デストリビューターって、Linuxの配布元じゃないのか?」

「基本の意味は同じだよ。良いから情報を混ぜるな」


 苦労はしているようだが、皆学校の授業とは違い。生き生きとしている。


「いい。みんな、この世界のファッションは私たちが作るの。私たちは世界の中心となるのよぉ」

 妙なテンションで、元手芸部の学生達も燃え上がっている。

 意外と地道な部活で、文化祭の時以外は、存在さえ忘れられていた生徒達。

 この世界のファッションに、革命を起こすらしい。


 この世界、まだ波縫いと一カ所ずつ縫っては、玉留めをしていた。


 そこに、様々な縫い方を持ち込み、主婦達からの信用を一気に手中に収めた。


 そしてある者は、活版印刷とオフセット印刷を持ち込む。

 オフセットと言っても、まだガリ版の親戚のようなものだが、画期的であった。


 そして、給食付き学校。

 一気に増えた税収と、農機具の進化が多少あり、これにより一気に耕作地を広げ、肥料は、川の中州から、発酵された堆肥が肥料として配布される。

 そのおかげで、食糧自給率は一気に跳ね上がった。

 まあ、主にイモだが。


 イモも、単に焼くしかなかった世界に、蒸し、潰し、揚げ。

 今まで無かった調理法により、一気に人気を博する食べ物へと変化をする。


 むろん、学生達の仕業。

 イモの収穫があると、すぐにジャガイモと同じようだと誰かが気がつく。

 すぐに揚げられ、薄切りの揚げ菓子が作られた。

 軽く、塩を振り頂く。


 その食事風景は異様で、町の人たちは、イモを薄くしたものに塩を振っただけで、学生達が叫びながら食べる様子は信じられなかった。


 人間。待ち望んだものに出会えた感動は大きい。

 町の人たちには、決してわからない感覚。

 これとともに、黒い炭酸の飲み物でもあれば完璧だと、誰かが涙を流す。


 この世界に、文化と技術を再現する。

 学生達の、行動理念はそこへとたどり着いた。

 何とかすれば、何とかなる。

 頑張れば、結果が出る。


 来たときの、ただ周りが何とかしてくれと言う者達は、一部を除いて居なくなってしまった。そのかわりに覚えたことは、一歩一歩努力をすれば進むことが出来る。

 彼らは、確かに変わった。


 彼らのそんな姿を唯一の教師である、数理先生は見ていなかった。

 彼は此方に来て、趣味に没頭を始めた。

「うん? この星の運行。おかしいぞ。この太陽系の惑星か?」

 星を観察をして、その動きを見る。


 カメラでもあれば、もっとわかりやすいが、時間をおってノートに記録をしていく。


 この星にも月がある。それの運行も当然控える。

 海の形が、微妙に違う。


 ほぼ三〇日周期。

 地球では、二九・五日。大きな差異はない。

 これが、似通った生物系を進化させたのだろう。

 そして、天の川。

 これにより、この太陽系が、どこかの銀河に属していることが分かる。


 問題は、星の配置。

「少しずつ違う様だが、似通っているなあ。昔ならこうだったような配置だ」

 一瞬ここは、昔の地球ではないかと、考えてしまう。

 その位、色々なものが重なる。


「だが、記憶の中に前時代文明として、ここと重なるような遺跡は知らないな」

 幻のムー大陸? それともパンゲアの分裂時に没した町? 色々と思いは馳せる。


 実際、この大陸。数理はわかっていなかったがヨーロッパに似ている。

 パリブス王国は、イタリアのミラノ辺りだろうか。実際はもっと山脈は厳しく、イタリアのように半島部分は無くセプテントリオ王国が広がる平野がある。

 ユーラシアから独立した大陸なら少しは似るだろうが、似て非なるもの。

 

 似ているものを探せば切りが無く、それは多分に心情が影響をする。


 そう。数理は教師という職を離れ、生徒達が頑張っている中、不毛な現実逃避をしていた。

 もっとも、色々な知恵は与えていたから、全く何もしていないわけではないが。


「見てごらん、カーリン。この望遠鏡で見えるのが、月の真実だよ」

 レンズによる屈折式ではなく、反射式望遠鏡を自作して、そばに居た女の子を呼び寄せる。

「はい、先生」

 反射式は、凹面鏡と鏡もしくはレンズがあれば作ることが出来る。収差、つまり、ゆがみのないレンズを幾つも作らなくて良い。


 カーリンは此方に来て、仕事を手伝ってくれた17歳の少女。

 身長、一五六センチで金髪碧眼。

 元々の栄養状態のため、凹凸は寂しいが、明るく、けなげですなお。

 ちなみに此方では、もう大人として扱われる年齢。


 呼ばれたカーリンは、躊躇無く数理の膝に座り込み、背中を預ける。

 そう、生徒達と同じ年齢の娘と、そういう関係になった。

 素直で良い子だから、それを良いことに、色んな知識を教えるついでに、性技まで教え込み、やり放題。先生と呼ばせる始末。


「けっ」

 どこかで、生徒の一人がそれを見たようだ。

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