第8話 人間の本能と社会的余裕

「そうか、それは良いことだ。ここは日本とは違う。周りの危険を考えれば、女の子一人では生きられない。榊原に会いに行くなら、いま、内燃機関。車のエンジンみたいな物を作ろうとしている。手が欲しいと伝えてくれ。他の二人も、何か考えないと、生き残れないぞ。この世界、国の保護はない。生活は自分で何とかしないと生きられない」

 そう言ってくれる神野君だが、やはり友美と 智子は噛みつく。


「なによ。同級生が困っていたら、誰だって手を貸すでしょう?」

 それを言い放つ友美に、呆れた目を向ける。


「それは、あらかじめ。まあ、普段から真面目に人に手を貸してあげていたやつの話だ。この世界、一方的に依存して、寄生するようなやつは、殺されるか、売られるだけだ。今現在、この国は戦争中だしな」

 そう言うと、神野君はため息を付く。


「日本は、特殊なくらい、弱い者の味方をしていた。政治に関わり出すと、いかにおかしなことかがよく分かる。おかしいというのは、非効率。助けるための金は、問題にされる年金と同じだ。幾人かで、一人を助ける。年金は問題になるのに、生活の保護はあんまり問題となっていない。おかしな話だったが、まあそれは良い。大きな問題として、日本と違い。ぶっちゃけ、金がないんだこの国は」

 そう言って、私たちを睨む。

 ものすごく冷たい目。

 神野君を怒らせると、殺される。綾香はそう感じた。


 神野君は、この半年の中で一番忙しく走り回っていた。

 それも、自分たちがいかに安全を担保して、一方的に相手を殺せるのか。

 人の殺し方を、考え続けていた。

 そうだったんだ。動き回っていた人たちは、もう日本人の常識は捨てたのかもしれない。


 日本での生活を、引きずっているのは、何もしなかった人間だけ?

 攻撃をしなければ、相手は何もしない?

 そんな事ない。

 ひどい扱いを受けた難民を見た。


 どこからか、情報を拾った神野君が、国境近くから人を引き上げさせろと、王様に命令をして、実質救出をした。


 女の人たちは、全員妊娠をしていた。

 私もこの目で見たのに、流していた。見ていないことにして記憶に蓋をした。

 考えたくない、情報だから。

 現実から目をそらし、見なかった。

 この国は安全。そう考えたかっただけ。


「この国の基本原則は。いや、この世界の基本原則は、弱く力が無いやつは、今助けてもすぐ死ぬ。関われば自分たちに被害がくる。だから助けず無視をする。見たことがあるだろう。クラスの虐め。人間としての歴史が浅く、思考するのに知識が足らない。きっとこの世界は、全員の発想が、中高生レベルなんだよ。分かったか。自分が動かないと死ぬ。誰も助けない。周りは見ているだけか、目をそらすかどちらかだ」

 それだけ言うと、彼は行ってしまった。


 基礎教育が足りず、知的レベルが低い。

 そのため、暴力が蔓延し正義となる。

 神野君が言った、弱者を切り捨てず保護する有用性。

 三人は考えたが、その何故は。思いつかなかった。


 後日、彼の曖昧な記憶と自分の考えだと、事前に断りを入れられたが、教えてくれる。

「一つは、人間は社会性を基盤とする生き物だ。弱い者を切り捨てると決めたら、どこまでがボーダーなんだ? 偏差値の真ん中か? それとも身長か? 世代を重ねるごとに下の方を切ると、どんどん減っていくぞ。許容できて、守れるなら守った方が良い」

 すると彼は言いづらそうに、口を開く。


「もう一つ。今生き残っている人間は、人類が生まれて二十万年くらいだったと思うが、そこから繋がってきた子孫だ。猿人や原人は生活環境や病気だろうか。原因は分からんが滅んだ」

 少し考え、多分理解させるため、何かを考えているのだろう。


 千尋ちゃん達が言っていたが、近くで見ると、神野君てかっこいい。

 樋口君と二人で、夕暮れの窓際で会話していた姿は尊かったと言っていたけれど、確かに。分かるわ。

 駄目よ、私には慎也がいるし、お腹には子供もいるのぉ。

 何故か、一人で綾香はハアハアし始める。


「うん。どうした。大丈夫か?」

 慎ちゃんに心配させてしまった。

「あっうん。大丈夫」


「わかりやすい例だとな、フランスのワイン用葡萄は昔一度全滅して、もっと身近だとバナナも幾度か滅んだはずだ。単一の遺伝子は、病気に脆い。人間は多様性があり大丈夫そうだが、年を取ると、遺伝的な特性により病気になりやすかったりする。つまり人間の遺伝子。何が正解か分からない。今の社会環境では、ひ弱なやつとかおバカなやつだが、環境が変わっていきなり大魔法使いになったりするかもしれない。だから社会が豊かで保護できる環境なら、保護したら良いとどこかで読んだ」


「ああ。なるほど。町の便利な世界でしか暮らせないと、何も出来なくて、何をしたら良いのか分からなくて、ただ時間を潰して、怠惰に暮らしていた俺達か」

「おう。まあそれも。そうかもな。まだ皆でまとまって、王都に召喚だったが、原野に一人なら死んでいたな」


「らっきー」

 なんとなく元気が回復した、榊原だが、性格は直らんな。

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