第7話 恋愛事情
突然、クラス全員。異世界召喚。
だが、相手側もよく分かっていなかった。
だが、そんな手探りの不安が徐々に改善をされていく中、一部の者達は考える。
学校は行かなくても良いし、飯だって食える。天国じゃね。と。
自分に自信が無く、やれることが見つからない女子達。
同じく面倒がったり、単純な力仕事を嫌がり、あぶれた男達。
落ち着ける場所は限られている。
日がな一日、食堂やホールでだべり、意気投合する。
そして王城は以外と広く、探せば鍵すらまともについていない部屋がある。
年頃の男女。
序盤や中盤の進む方向に差はあれ、行き着く所は同じ。
最後は、定石に乗って、手を進めるのみ。
半年も過ぎれば、「あれ、今月来ていない」そんな声が、あちらこちらで聞こえ始める。
勘違いもあれば、大当たりもある。
男達はその心構えによって反応が違う。本気のやつは、仕事を探し始め、一時的快楽のみに突っ走ったやつは、複数人から詰め寄られる。
ここは一夫多妻が普通。というか、一般市民にまともな結婚という制度がない。
適当に、同棲が始まり、適当に家族が出来る。
それが普通のようだ。結婚の儀式としきたりは、貴族のみに存在する。
周りから、自業自得。頑張れと、生暖かい視線がやってくる。
そいつ達も、遅ればせながら出来ることを模索し始める。
「いつまでも、ただ飯が食えるとは限らない。困らないように仕事を見つけろ」
彼女達は言い放つ。
つい数日まで、仕事なんかめんどくさぁい。そう言っていた、同じ口で。
母になるとなったら、第二形態に進化し、責任感が芽生えたようだ。
そして男達も。
「子供が出来る。俺が父親。うおーぉー」
と絶叫し、頑張るやつもいれば。
ある生徒は、
「子供が出来る。それも三人も」
絶望した顔でそう言って逃亡をはかり、三日後。死にそうな顔をして帰ってくる。
日本と違い、町を出ればいきなり原野。
この世界、伝説のようなモンスターはいないが、凶暴な獣はいる。
剣術や対人の訓練をせず、武器も持たず。サバイバルの訓練も受けず、知識も無い。
色々なことから逃げまくっていた男子高校生が、生きられるはずもない。
王都から離れる力が無く、周辺でうろうろしていただけなので、無事に帰ってこられたが、もう少し離れれば、山賊や盗賊に出会い、殺されるか奴隷へと一直線だった。
その事に本人が思い至っていないのは、少し不幸かもしれない。
だが、さらに試練が待ち受ける。
「身重になった三人を放り出し逃亡。何も出来ずに帰ってきたってよ」
そんな話が、この世界にしては驚異的なスピードで広まった。
つまり、彼の周りから人が消えた。
自業自得で、どうしようもなくなった彼の名前は、榊原 慎也(さかきばら しんや)元サッカー部。
サッカー自体はあまり上手くはないが、人当たりが良く人気者。
それも、過去の話。
ぽつんと、中庭で落ち込む彼の前に、三人組がやってくる。
そう。妊娠三人組。
鈴木 友美、松田 智子、渡辺 綾香。
「慎也。いつまでそんな事をしているのよ。生まれてくる子供のために頑張ってよ」
「そう。人間死ぬ気で頑張れば、何とかなるそうよ」
「そうよ。神野君がそう言っていたの。やる気があるなら来いって」
三人は、見捨てず。共に生きてくれるようだ。
彼は、顔を上げて三人を見る。
「神野が、なんだって?」
綾香にそう聞く。
「なんだっけ? あっ、そうそう。何か車みたいな物を作るからって、言っていたわよ。人数が欲しいって」
「車だと? 燃料はどうする気だ。まさか蒸気機関か?」
「そのあたりは、よく分からない。手が足りないそうよ」
「分かった、行ってみる」
そう言って立ち上がり、ふらふらと研究施設に向かって行った。
「よかった。行ってくれた」
「神野くんて、怒ると怖いのね」
三人は思い出す。
いつもの様に三人集まり、慎也のことを貶していた。
自分たちを放って逃げたことをブチブチと。
そこに現れた、裕樹は怒っていた。
「お前達三人とも、榊原のことを好きで抱かれて、子供を作ったんじゃないのか?」
三人に向かって、言い放つ。
「なによ、神野。文句でもあるの?」
つい、反射的に反抗をする。
「大ありだ。今のあいつの状況は知っているだろう。家族が支えにならなくてどうするんだ。世界中が敵になっても守るものじゃないのか。逆の立場だったらどうなんだ? あいつは男だから、弱音も吐かないかもしれない。ああいや、お前達がそんな態度だから、誰にも弱音を言えず、逃げたんじゃないのか?」
そう言われて、私たち三人は覚えがある。
妊娠が発覚。
時を同じくして、友美達三人が、集合することになる。
そこでの会話は、これはどういうこと? 誰が一番好きなの? から始まる攻撃一辺倒。それも三人とも。
あまり深く考えず、慎也を受け入れた三人。
さみしさと、単なる娯楽。
することをすると、子供が出来る。家族になる。そんな事は、これぽっちも考えていなかった。
つまり、無責任と責め立てる言葉は、自分たちにも言えること。
この時、誰か一人でも、慎也を擁護する方へ回っていれば、きっとその娘が一人勝ちとなって、慎也は逃げず、何とかしたかもしれない。
男は、女の子に意外と? いや、かなり依存する。
付き合っているときには見栄やプライドのせいで、冷たい態度や、偉そうにするが、失ってしまうと、かなりの確率で追いかける。
グチグチと、女々しく。そうだな、最低半年くらいは引きずる。
あくまでも、好きだった場合だが。
その前に冷めたら、割り切る時間は、もう少し短いかもしれない。
それでも色々考えるのだが。
まあ良い。
「そうね。私、慎也と暮らす」
そう言って、立ち上がったのは、渡辺 綾香。
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