第6話 南からの使者

 雄一と一緒に国へ入り、無事に王都へと入れた。

 王城での話し合い。そして予想通り、弓は売ってもらえなかった。


「残念でしたね。お頭」

「誰がお頭だ。盗賊じゃない」

 馬鹿なことを言っているのは、昔からの友人。騎士爵家の次男坊。

 セルソ=エスピノ。


「だが町を見ろ、景色と匂い。どこにでもある、糞便の匂いがない」

 そう指摘して、初めて気がついたようだ。


「そしてもう一つ、一緒に来た雄一。彼と同じ民族が見当たらない」

 この世界の一般的民族は彫りの深い顔。

 髪は金か銀。

 それが、町中にあふれる普通。


「黒髪黒目。はっきりしない目鼻立ち。大柄な体。どこから来たんだ?」

「周りの国にもいないな」

 セルソの記憶にもないようだ。


「どこか、海の向こうからとか」

「この国の、どこが海に繋がっているんだ?」

 ここは内陸。海に接してはいない。


 そこで、にまっと笑うと。

 セルソは横を歩いている、パリブス王国の兵にさらっと聞く。

「雄一殿はどこから来たのだったかな?」

 それを聞かれて、兵は素で返してしまう。


「ああと、『じぽん』とかいう国だったような気がする」

「あれ? そうだったか?」

 わざとらしく、聞いたことがあるふりをする。

 だが、頭の中では、じぽんを呪文のように繰り返す。


「いやあ。彼らの武器はすごいし、優秀だよなあ」

「ああ。あんなに威力があって飛ぶとは思わなかった。こっちは安全に、敵だけを倒すのが、彼らの国では大前提らしいぞ」

 兵は嬉しそうな顔をして、話をする。


「そのようだな。此方の武器は全く届かなかったよ」

 それを聞いて、兵は、ふふんと嬉しそうな顔をする。

 そして、指をさしてしまう。


「あの城壁の上を見ろよ。まだテスト中だが、あの大きな矢が一千メートル以上飛ぶんだってよ」

 彼らは見た。確かに城門の上にものすごい物があった。遠くて、詳細は見られないが、周りで黒髪が数人動き回っている。


「やっぱり奴らだ。集団でこの国に力を貸している」

「彼らを、仲間にしたら、お前の願望が叶うんじゃないのか?」

「そうだな。だが、軽々しく口にするんじゃないよ」

 アルトゥロはセルソを睨む。

「分かった」

 そう言って、セルソは両手を上げる。


「『じぱん』か、恐ろしい国だ」

 アルトゥロは、黒髪黒目をこれから追い求めることになる。


 彼は国へ帰ると同時に『ジパングという国』と『黒髪で黒目』その二つの情報を元に、その国と国交を求めようとした。

 幻の国、ジパング。密かにその名前が拡大をしていく。


 ********


「ああっ? 我が国の砦にまで、向こうの矢が刺さっただと?」

 いぶかしげな顔をしているのは、オリエンテム王国の王。

 アレクサンデル=オルムグレン。三十五歳。


「はっ。我が国のフルプレートに盾も、国境の距離ならば貫きます。おまけに引っこ抜くと、筒が残り、血が止まりません」


 そう。

 実は、植物に繁殖をしているカイガラムシの一種に、怪我をしたときに触ると血が止まらなくなると言うタイプがいること。情報を聞いた先生達は、血液溶血剤を作った。

 副作用は、知らん。


 意外と効果的だったようだ。


 こっち側では、学生達が、『ペニシリンでございます』それを何故か合い言葉に、ペニシリン製造と、酒。味噌。醤油を造っている。

 むろん十分距離は離している。


 納豆を食べると、酒が腐る。本当かどうかは知らないが、酒蔵では納豆を食べてはいけないそうだ。

 良いものでも、混ぜると良くない。


 先生につくばと名を付けられた広い中州。

 そこにぽつんと立つ、研究所群。

 そこでは、日夜。怪しい研究が行われている。


 多方面に、無い知恵を絞る学生たち。


 その一端が、血液の溶血剤。



「そして、逃げてきたのか?」

 王に聞かれて、ちょっと頬が引きつる。


「無為に、兵を減らしても困ります故。到達飛距離はおおよそ五百メートルだと分かりました。そして、この矢の先には金属が使われ、その部分に何やら薬が塗られております。この矢は先が差し込まれておるだけのようで、引っ張ると抜けて筒から血が流れる恐ろしい構造となっております。それに、刺さった肉から抜けぬよう引っかかりもあり、さらに飛ぶときの安定版もになっておるようでございます」


 説明を聞いて悩む。

 街道で税を取るしか出来ぬ国だったはず。

 いつからこんな。


「おい。あの国で何があったのかを調べろ」

 アレクサンデル王は、宰相スヴェン=ヘルナルに依頼を出す。


「御意に」

 とは言ったものの、正面からでは入れまい。

 商人のふりをして、北のセプテントリオにでも行かせようか。

 ついでに、干物を仕入れてきて貰おう。



 そんな騒動は、当然のようにオコーデンタリス共和国や北のセプテントリオ王国でも発生。


 商人に扮した、兵達がわんさと押し寄せて来始める。

 これ幸いと、自国以外に荷を積んでいく商隊には税金をふっかける。

 そして、内部の商家からは、通行税を取らない優遇をきかせた。

 商隊を編制をさせて、周辺国からの物資調達と、情報の収集。

 それを、徹底的に行った。


 むろん、裕樹の指示である。

「情報と、物資が命。生命線だ。今のうちに集めろ。今現在、他の国はうちの情報を欲しがって、バカみたいに各国が門戸を開いておる。今のうちじゃあぁ」

「ねえ。美咲ちゃん。裕樹君が壊れ掛かっているよ」

 千尋が、美咲のそでを引っ張る。


「なんか、戦国武将でも憑依している感じね」

 美咲はそう言って、ふと思い出す。


 子供の頃。

 その頃からかわいかった美咲は、ませた男子の標的になった。

「先生こっちです」

 そう言って、走ってきた裕樹の後ろには先生などいない。


 だが逃げようとして、背を向けた子達に、無遠慮なドロップキックを見舞っていた。

 その後。

「戦は、戦略と戦術じゃあ」

 そう言って腕を突き上げていた。


 その頃から、妙に難しい言葉を操っていた裕樹。

「子供の時と変わっていない」

 思いだして、笑みがこぼれる。

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