第5話 使者達の憂鬱

「何? 新型の武器だと」

 南にあるメリディオナル王国。

 王城の、謁見の間。


 この国と、パリブス王国の間には、越えられない山脈がある。

 そのため、諸国の中で、唯一利がなく。他国の発案に乗っただけである。


 様子見がてら、東西に一千人ずつ送り、兵の訓練という感じで、戦争の様子を見させに行かせた。

 そのため、比較的有望な貴族の子弟が混ざっていた。

 当日、東のオリエンテム国が引かない一件があったが、あれはメリディオナル王国の兵だった。


「はっ。先端に金属をはめた矢であり、我が方の四倍から五倍平気で飛んできます。そして、革鎧や、薄い金製の鎧は貫通いたします。そして、質が悪いことに、この矢。刺さったものを引っ張ると、先だけが体に残り、血が止まりません」

「なんと、むごいことを考える。いや此方からの文言。本気にさせたのはこちらか。あそこは、様々な伝承があるからな。まあ良い。ダメ元で、使者を出し。和平と出来れば新型武器を売ってくれないかと、向こうへ伝えろ」

「はっ」


 勢いよく、返事を王にしたが、心の中では、そんなことできるわけが無いだろうと叫ぶ。


 オリエンテムとの共同作戦で、小隊を率いて色々と試した男、アルトゥロ=パチェコ男爵。以外と実家は貧乏で苦労をした。

 昔は王族に近かったが、はめられ没落した家。

 三代前のことだが、世間はまだ関わることを避ける。

 そのため、貧乏。


 子供の頃から、子供の頃からバレス家の復興をと、懇願され期待されてきた。


 だが今になって、王家がその一件に関わっていることを知ってしまった。


 引っくり返すならば、力が必要。そう思い。軍へと志願をして、現在に至る。


「使者か。直接どのような物なのか見たいが。パリブス王国。細々と暮らしているイメージだったが、何があった?」

 考えた末、自分が行くことを決めた。


 だが、相手の行動に命を預けることとなる。

 機嫌を損ねれば、使者など全員殺されて、送り返されることも考えられる。


 だが、王からの親書を携え、選りすぐりの分隊を率いて、パリブス王国へ向かうことにした。


 今回の作戦で顔見知りの増えた、オリエンテム側を回り込む。


「さて行くか」


 国境へ立ち入る。

 

 砦は、双方の国に建っている。

 その中間。

 本来の弓なら、砦からの飛距離限界。


 前回は、国境を越え。攻撃を始めたオリエンテム国が、やり返されてあわてて逃げた。だが、どこまでも矢は追いかけてきて、多数の被害者が出た。


 最終的には、オリエンテム国の砦にも多数の矢は届き、あまつさえかなり高いところにまで刺さっていた。

 つまり、パリブス王国の弓は、従来の二倍以上の飛距離だということ。


 目立つように、布きれを掲げて振る。

「メリディオナル国の使者である。王からの親書を持って来た。攻撃をしないでくれ」

 大声で叫ぶ。


 やがて聞こえたのか、大楯を数人が持ち。此方と同数。一〇人ほどがやってくる。

「この砦の司令官。樋口 雄一だ。メリディオナル国の使者だと?」

「そうです」


 なんだ? 司令官? 聞き慣れない名前。肌の色。黒髪に黒目。そしてでかい。

 雄一は裕樹と同じく一七八センチメートルある。


 この世界、中世と同じで、食生活は良くなく、男性でも一緒に来た女子と同じくらいの身長しかない。アルトゥロ=パチェコ男爵も、背が高い方だが一六七センチくらいしかない。


 この体躯で弓を放てば、ある程度強い弓が引けるが。だが、何倍もの飛距離。

 さすがに無理だろう。


 おとなしく、彼らについて行く。

 むろん半分は、我々の背後にいる。


 雄一はこの時、鎖帷子を着込んでいた。

 一般的な此方の世界に在る剣では、切れない。だが衝撃は防げないから打撲になるし、鎖骨などは折れる可能性がある。切りつけられたら切れないがかなり痛い。


 背を向けているから、切るなよっとずっと祈る。


 砦に着き、雄一が声をかける。

「決まりにより、中には入らせることは出来ない。出立の準備をしてくるから、少し待ってくれ」


 そう言って、砦に入る。

 雄一は今回、武器の使い方を指導するために、荷物と一緒にやって来て、そのまま半年ほど捕まり。いつの間にか司令官になっていた。


 以外と、気の良い奴らばかりだが、おっさんばかり。

 それに、敵相手とはいえ、いかに効率的に殺すかを、考えることに少し疲れた。


 マニュアルを作り配布したので、想定できる範囲なら大丈夫だと思い、今回良いタイミングだし、ついでなので帰ることにした。


 それに、どちらにしろ使者達には兵士を付けないといけないし、そっちの見張りも兼ねる。

「…… 元気かなぁ。まさか、付き合いだした瞬間に、長期の単身赴任とはな」

 雄一もこっちに来て、付き合い始めた彼女が出来ていた。


 元々、雄一は裕樹と同じくモテる。

 面倒だから、付き合わなかっただけ。


 周りから、女の子と付き合うときの煩わしさは聞いていいる。

 髪の毛を、数センチ切って気がつかないと怒ったり、自分は遅刻しても、男が遅刻すれば怒るとか。私のどこが好き攻撃がくるとか。

 まあまあ、色々と。


 だが此方へ来て、全体の意識が変わった。

 平和じゃない世界。

 誰かと一緒にいたい、誰かを守りたい。

 なぜか、そんな気持ちが湧いてきた。

 きっと命の危険を感じると、異性を求め本能が呼び覚まされるんだ。

 皆はそうだと思った。


 だが、今は勘違いをしているが、ホームシックになり、寂しい者同士による傷のなめ合いだと後で分かる。

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