第4話 お湯を湧かします

 健康のためにその一。

 最初は、ろ過と煮沸の徹底。


「薪が、これでは大量に必要だ」

「死ぬよりましだ。やれ」

 そう言って、睨む。


 何故こうなったのか?

 最初は、生水の危険性を説明したが、目に見えない物の危険性を理解できない。

 学者のような奴まで来たが、結局説明を理解できても、見えないので話にならない。見えない物など、何故恐れる? そんな感じだ。

 その割に、毒は理解できているようだし、完全に納得をさせるためには、結果が必要かもしれない。


「流行病の記録はないのか?」

 そう聞くと大量にあった。


 インフルエンザなどもあるだろうから、半分は外れだろうが、赤痢っぽい物やコレラのような症状が書かれた物があった。コレラがあるのか怖ぇーよ。


「これらすべて、水が原因だ。王ともあろう者が何故知らない」

 とまあ、ぶち上げたら、気の弱い王様。


 俺達のことを、大司祭も神の使途と言っていた。それを聞いたからか、以外と話せる感じとなった。無論心の中は知らない。

 ただ、今は従ってくれるようになった。ありがたい。


 そしてこの世界、基本的な俺達が思うような魔法はない。

 だが、神の奇跡はある様だ。

 様々な遺跡から出てくる、魔方陣。そして書物。それを利用をすると、奇跡が使える。


 先生は、戦闘で使うアウトレンジの武器。定番のクロスボウと複合弓 (ふくごうきゅう)を開発中。

 この世界の物と射程距離が全く違う。

 一部和弓では、射程距離が四〇〇メートルを越える物があったようだが、まあ良い。


 アルミが欲しいが、精錬に確か馬鹿みたいな電気が必要なはず。

 それに水酸化ナトリウムも確か海水からの、電気分解だったはず。

 化学の先生が来ていないのが辛い。


 ただまあ、数学の数理 志堂(すうり しどう)先生は三二歳。物理もいける。

 鉄鉱石の精錬はうろ覚えだった。だが、歴史好きの松井が詳しく覚えていた。

 『鉄を得た物が勝つ』だそうだ。


 松井は、此処で造られている、へにょへにょの鉄を、改良する。

 そう、高炭素鋼の作製。

「他のものも混ざっていれば良いのに」

 そう言っていて思い出す。


「そうだ。ここはプレート境界であり、さらにカルデラ。なら」

 そんなことを言ったと思ったら、松井は兵士を連れて蛇紋岩を探しに行った。

 かんらん岩は、様々な場所で熱水変質作用を受けて蛇紋岩が造られる。


 それを、わずかに加えて精錬をする。

 あまり入れると、脆くなるらしい。

 クロムとニッケルが入っているらしいから、ステンレスになるな。

 だが、物によっては石綿が入っていた気もするぞ? 話を聞いて、松井を少し心配をする。

 

 まあ、使うなら言っておこう。


 そして、王都の上流側に高炉を造り、その廃熱がてら細管を造り湯を沸かすようにした。

 取水から、沈殿池。その上部からさらに水を取り、濾過槽へ。

 そこから管を通り、町へ運ぶ途中で沸かす。


 カルキと呼ばれる次亜塩素酸カルシウムが無いため、掛け流し。

 丁度良い感じのお湯が、各家庭に流れ込むようになった。


 ここまでで、すでに六ヶ月。


 腹が立つことに、遊んでいる奴ら。何人かがくっ付きやがったぁ。

 奴らただ飯食って、遊んでいるだけなのに。


 一部の女子は、紙の改善に走った。

 トイレットペーパーが欲しいらしい。

 その他、綿花を探しに行ったり、縫製関係も何人か指導をしに行った。

 当然皆プロじゃない。


 うろ覚えの知識を、何とか現実に会わせて試行錯誤している。

 今回。やっぱり神の恩恵を貰った、チートは誰も居ない。

 しいて言えば、学校で習った知識や、趣味で覚えたことが歴史を飛び越えた差。チート知識。

 

 中には、危ない奴がいて、蒸気機関で槍を飛ばそうと試行錯誤もしているようだ。

 以外と皆自発的に、こんな事が出来るのじゃないかと考えて行動する。


 学校の授業では、見向きもされなかった数学が、日の目を見たと数理先生は喜んでいる。だが実際は、死にたくはないという。今まさに身に迫った現実とゲームも何もない世界。なにもしないと暇なんだよ。


 この世界の人たち、拙い知識でも、自分が何かをすると、回りで見ていて驚き喜んでくれる。高校生の承認欲求を恐ろしい勢いで満たしてくれる。

 自分は役に立つ。認められる。それを感じたとき、その時の興奮と喜びは癖になる。


 先生の造った複合弓はとっくに実戦配備。大量に作って配備済み。

 敵が使うのは単弓。そのため矢が飛んでくるのは、一〇〇メートル前後。

 こっちの複合弓は、カムを使用してコンパウンドボウになっている。

 開発年は1969年。最新だ。


 射程は、五〇〇メートルくらい。

 気合いを入れると、一二〇〇メートルくらい飛ぶ物も作れるようだ。


 相手の装備をしている鎧も、兵達に話を聞いたところ、ちょろっと金属を使ったもので、矢の速度と飛距離は落ちるが、先を重くするとぶち抜けた。


 そして、遊んでいたと思われた蒸気式。

 蒸気と油圧を使った投石機になっていた。

 確か本家は、スチームガンと言って配備された歴史はあるが、火薬に負けて姿を消したはずだが。


 そして、近接用はクロスボウ。

 ベルトコンベアを射手の脇に置き、弦をかけた物が右から流れてくる。

 右利きが多いから、弓を右手で取って、左手で矢を番え、黙って射つ。

 その後、クロスボウ本体は左のコンベアに乗せて回収。

 交代制は意外と疲れるので、専任制にした。


 着々と、準備は整い。回答期限が近付いてくる。


 途端にオロオロし始める王様。


 そんな時、王城の鳩小屋へ鳩が帰着したようだ。

 あわてた感じの、兵士により手紙が運ばれてくる。


 紙は薄く、丈夫になった。

 女子の、トイレットペーパにかける、執念のたまものだ。


 手紙に書かれていた内容は。

「手はず通り、返答は拒否。攻撃が来たため反撃」

「よし。それで良い。後は敵が馬鹿じゃないことを祈ろう」


 順に、各方面から、敵撤退の手紙が届く。

 後は、警戒に移行する。


 だが一件。

 東のオリエンテム国が、引く様子が無いようだ。

「全滅は面倒だな。使者を送ると、帰ってこれなくなるぞ」

 だが、それから、小一時間で引いたようだ。


「敵。射程距離を測っていた模様。との事です」

 

 宰相が、疲れた顔で報告をしてくる。


「敵も馬鹿ではなかったか。だが、これで戦力差も分かっただろう」


 それから、二週間後に、南のメリディオナル国から、使者が来た。

 非礼の詫びと、弓を売ってほしい旨の親書付で。


 丁寧にわびて、お帰りを願う。

 無論。現物も見せない。

 賢い奴なら、カムを見ただけで、原理に気がつくからな。

 この辺りは、兵にも徹底させて、砦以外では複合弓でもコンパウンドボウは持ち出し禁止にしてある。

 むろんクロスボウもだ。


 そして、超大型ヘビー・クロスボウ。スチームタイプがすでに作られている。

 カムを使用して、各素材の限界で作った。

 力に耐えられるワイヤーが、やっとうまく出来た。


 射出後、バルブを開けると、弦が勝手に戻ってくる。

 蒸気と、油圧。

 そう、投石機の原理を流用。


 彼らの目指した、やり投げ機はここに完成をした。

「思っていたのと違う」

 彼らは、まだ完璧を目指すようだ。

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