第3話 日本の異変と真相

「学校でクラス一つ、全員失踪です」


 おかしいと気がついたのは、次の授業を受け持つ古代史の先生。

 中世における環境衛生と、コレラの猛威を教えるために教室へ入った。


 だが、教室の真ん中には、竜巻の後のように、教室の真ん中に机や椅子が、集められ、ものすごく大きな力にひねられ、引っ張り上げられたようなオブジェがつくられていた。ねじれた円錐形。尖ったスライムとか、巻き貝の螺塔(らとう)部分が引き延ばされて尖った感じと言えば分かるだろうか。


 その奇妙な物を見つけ、速やかに生徒達を探し始めた。

 当然発見されず、他の生徒への聞き取りもしたが、すぐ隣の教室でも、オブジェが創られたときの音は聞こえなかったようだ。


 警察が入り、保護者会。

 周囲にマスコミも集まり、大騒ぎとなる。


 そして、その話は、何故か急速に忘れられていった。


 


 翌日、俺達は王様に謁見し、召喚の真意を聞くが、当然まともには答えない。

 ただ、問題をだされた。


「この国は、周囲を比較的大きな国に囲まれておる。南には山脈があるが、東西は途中で山が切れ、交易路が存在しておる。北は小高い山を越えると、一つの国を挟み海がある」

 簡単な地図が見せられる。

 大陸全体ではなく、この国とちょろっとした範囲。


「この図がこの国じゃ。小さくて王都と東西に町が一つずつ。これは、交易と防御のためのの町。国境には砦もある。そして北も同じ。小高い山があり、その両脇に砦。そして、中央に一つの町を配置」

 王がそう言ったら、松井が発言。


「プレートの境で、昔巨大火山があって、出来た外輪がこの国でしょうか?」

 北の山までが、一つのカルデラだったということだ。

 日本では、九州の姶良(あいら)カルデラや紀伊半島熊野カルデラが有名だ。

 超巨大火山があり、その中央部がごっそり崩落し、外輪だけを残す。

 すると丸く、山に囲まれた巨大カルデラがつくられる。


 さらにここは、南に向かってプレートがぶつかっており、南側が山脈に育った可能性がある。


 まあ、可能性だけだが。


「そのカルデラというのはよくわからんが、先を続ける。そこでじゃ、周りの国にとって、この国が丁度ジャマなようでな。今は大丈夫じゃが。攻められれば。特に周りが連合を組めば一発で滅ぼされる。いや、本当に今はまだ大丈夫じゃ。念のために備えようというのじゃ。余所から来たおぬし達なら、変わった知恵でもあるかと思ってな」


 王は落ち着いたふりをしながら、そう言い訳をするが、横の宰相さん達の態度がおかしい。

「先生、この国。破滅寸前のようです。殺されるのは嫌なので、何とかしましょう」

 俺が言いきると、王様は、目を見開く。


「大丈夫じゃ。きっと」

 その言葉をきいて、宰相は両の掌で顔を隠す。


「私も、死にたくはないが、何とか戦闘を回避する方法はないのでしょうか?」

 先生が聞くと、渋々王様は答える。


「あることはある。先だっての話の時に、まるで四つの国が示し合わしたかのように、毎年奴隷を千人。金貨一万枚。そして道中で取っておる、街道の通行税を停止しろと言ってきた。この国は街道の税収のみが収入の要。止めたら、穀物の輸入などが出来ず。滅ぶ」

 それを聞いて、先生は頭を抱える。


「奴隷の扱いは?」

「奴隷になったら、その国の持ち物。生かそうが殺そうが問題ない」

「この国の人口は?」

「少し待て」

 宰相さんが走っていく。


 息を切らせて帰ってきた。

 手に持っているのは、紙っぽいが分厚そうだしゴワゴワだ。

 あれが羊皮紙なのだろうか?


「えーとじゃな、ざっとで三八万人ということじゃな。じゃが調べている間にも増えるし減る」

「四〇〇〇人。毎年出しても何とかなりそうですが、若い人間が減りだしたら一気に人は減るでしょう。それ以前に、奴隷になるくらいなら先に国から逃げますね」

「わしもそう思う。弱い国に未来はない」

 王様が言い切ってしまった。


「えー戦争? しちゃ駄目だよ」

 誰か女の子が声を上げる。


「そうだよ。戦争は後に禍根を残して、未来永劫連鎖が送る」

 振り返ると、熊谷敏明(くまがい としあき)がどや顔していた。


「連鎖を送ってどうするんだよ。じゃあ、熊谷。奴隷に志願しろ」

 そう言うと、当然だが、どや顔が崩れる。


「いっいやだよ。誰か別な奴が行けば良いじゃないか」

「無論、皆いやだよな。一生まともに飯も食えず、こき使われ、気が向けば殺される」

 騒めきと共に、『そんなのいや』という声が聞こえる。


「他人事じゃない。自分たちのことだ。それにさっき外の国へ出ると言ったが、まともに出れば捕まって奴隷だろう。すでに、逃亡防止くらいは手を打っているだろう。街道沿いに兵がいるのじゃないか?」

 そう言うと、宰相がオロオロする。


「どうして、その事を」

「そんな物、俺でも考えつくからだ。奴らは、基本この国など皆殺しで良いという考えなんだ。そうすれば、熊谷の言う禍根も残らん。人道など考えて残すから後がややっこしくなる。中世以前の考えなら、それで良いんだろう。国連もないだろうしな」

 そう演説をぶち上げて、横を向く。


「先生。授業のお時間です。この時代の兵器を聞いて、それをひっくり返せる武器をつくろう。先制で圧倒的な力を見せれば、きっと敵も止まるさ。攻撃力がないと舐めきっているから攻撃をしてくるんだ」

 そう言うと考え込む。


「まあ、それはそうだが。私としては、先に水などの衛生関係とインフラを何とかしたいのだが」

 言われて、忘れていたことを思い出す。


「王様もお仕事の時間です。病気と敵の撲滅。頑張りましょう」

 そう言うと、オロオロして、宰相を見始める。

 それに気がついた宰相も、オロオロし始める。


「さあ、やるか。日和るのは無しだ。人間死ぬ気になれば何とかなる」

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