第2話 王家の意向とこの世界

「まあ待て。確かに此方が呼ばねば、この事態にはなってはいまい。だが、神の御業を実行してこうなった以上。大いなる意思があるはず。そうじゃ、神の意思。何か必然があったのじゃろう」

 王様らしき人は、そんなことを言い出し、脇の神官らしき人を見る。


 当然見られても、オロオロだ。

「そっ、そうでございます。王の仰るとおり、主神であられます。エバソル様のお心次第。きっと、何かがございますのでしょう」


 そんなコントが終わり、適当に部屋を割り振られる。

「このエリアを好きに使え」

 こんな感じで。


 皆で相談して適当に決めろとなったが、何故か俺達は先生と一緒の部屋になった。

 4人部屋。


 一応、二段ベッドの状態で使えそう。

 床は石なので、ものすごく冷たい。


 布団は、何かの繊維を編み込んだゴワゴワしたもの。


 でだ、食事をくれたが、予想外だったのだろう。

 何かイモっぽい物を、潰して焼いたもの。

 コップに水も入っていたが、泥混じりなのかな? 匂いがそんな感じだ。


 デリケートな俺達では、絶対腹を壊す。

 トイレは、壺だったしな。


 あれに座り続けるのは避けたい。

「先生。この水やばいぜ」

 すると、匂いを嗅ぎ、口に含む。

 毒だったらどうするんだよ。


「泥水だな。衛生環境が悪いな」

 ええい。数学以外はまるっきり駄目だな。


 立ち上がる。

「はい。ちゅーもーく。この水。泉か河か知らないが俺達は飲んだら腹を壊す。飲むなよ。土着の細菌でもいたら熱が出るし、アメーバでもいたら死ぬからな」

 言い終わり、どかっと座り先生を睨む。


「おお。そうかそうだな。お前数学は出来ないのに、良くそんな所に気がついたな」

 気がついていなかったのか?


 すると、兵士が近付いてくる。

 何だ、文句でもあるのか?


「おい今の話は本当か?」

「本当だよ」

 文句じゃなかった。


「なら、よくある流行病の原因は水じゃないか?」

 兵士同士が、ぼそぼそと話し始める。


「聞いて良いですか?」

「なんだ?」

「トイレって、あの壺ですよね」

「トイレ? ああ、排せつ壺か」

「ああ、まあそれでしょう。どうやって捨てています?」

「そんな物、埋めるか川に流すに決まっているだろう」

 さも当然のように、答えが返ってくる。


「この水はどこから、汲んできたんでしょうか?」

「川の上流だ」

「その上流には、家はありませんか?」

「当然、ハンターの集落がある」

 あー聞きたくない。


「その人達。トイレは、ああいや、排せつはどうしているのでしょう?」

「あん? 川だろ」

「やっぱりそうですよね。ははっ。井戸ってあります?」

「井戸って何だ?」

「あっ。結構です。先生、ペニシリンつくりましょう。漫画で作り方は覚えました。それと、井戸を掘って、衛生環境整えないと、俺ら死にます」

 さすが、有名。ドラマにもなったし。衛生環境については教師なら知っているよな。


「何だかなぁ。異世界転移して環境改善か?」

 同室になった、樋口 雄一(ひぐち ゆういち)がぼやく。

 スポーツなら何でも来い。俺とこいつでツートップ。


 身長と体重はほぼ同じだが、こいつが一七五センチメートルで、俺が一七八センチメートルだ。だが、背筋では俺が一六〇キロでこいつは一八〇キロをマークする。

 握力は共に六〇キロ台。

 一年の時に、体操の先生に捕まり、しばらく体操部にいたら人間離れをした。


「昨今、異世界転移で、若者の人間離れが問題になっているだろう。その帳尻あわせじゃないか。きっと俺達は、知識チートと、努力でこのナーロッパを生き抜けということだろう。きっとな」

「誰が言ったんだ?」

「さあ? なんとなく」


「馬鹿言っていないで、このイモはさすがに食えるだろうが、喉につまるな」

 先生がぼやきながら、出来損ないのお好み焼き? を手で掴み、ちぎって口に放り込む。


「最悪の、組み合わせだ。欧米人は唾液の量が多いが、日本人は少ないからな」

「先祖からの生活環境か?」

「そうだ、海藻だって消化できるようになるんだ」

「ああ。聞いたことがあるな」

 俺がそう言うと、雄一が答える。こいつ動画配信が好きだから、妙な知識を持っている。


 もう一人の、同居人は松井 聡(まつい さとし)数学と歴史が好き。

 身長は、一六八くらいだった気がする。


 痩せ型、だが意外と気が強い。

 言うことは言わないと、人は理解できないと、ニュ○タイプ完全否定派。

 おれも、相手が女の子だと、完全同意だ。


 『分かってくれていると思ったのに』『何を?』そう言って別れたこともある。

 そのくせ逆は、『言ってくれないと分かるわけないじゃん』

 そう言われるんだよ。

 分からないんだよ、あいつと一緒で。

 そんな事を思いながら、桐野美咲をちらっと見る。


「やっぱり、神野君かっこいい」

 美咲と同室になった、山本 亜弓(やまもと あゆみ)が熱い視線を向ける。

「それに、アウトドアが好きなんだっけ?」

 これは、後藤 千尋(ごとう ちひろ)。

 この子は二年になってから遊びだしたけれど、彼女お父さんの影響で釣りをする。

 その時私は、裕樹が詳しいと、しゃべってしまった。


「そうそう。課外活動の時も、なんだっけ? ガチンコ漁をするって言って、先生に止められていたよね」

 そしてこの子。鈴木 めぐみ(すずき めぐみ)。身長一六五センチで、まああれだけどっ胸がね。何食べたのっていうくらい。

 定期的に、裕樹が私に告白をしてくると、なぜか集まってきた。

 性格も良いし、楽しいんだけどね。


 高校に入って、告白? されたとき。

「おまえ、しばらく見ないうちに育ったな。うむうむ」

 胸を凝視しながら。

 あの一言にカチンときて、その後言われた、裕樹の告白を断ってしまった。

 しかも、彼氏がいるとまで嘘ついて。


 ここは、裕樹の独壇場ともいえる世界。どうなるのかしら?

 それと、まだ皆。興奮状態だけど、ホームシックは出るでしょうね。

 家族は、心配しているだろうなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る