集団転移から始まる、非現実な日常。-人間死ぬ気になれば、何とかなるかもな。-

久遠 れんり

第1章 へまと復活

第1話 何が起こった?

 今日は、一九四五年六月二一日。

 もう米軍は、三月二六日から始まった上陸作戦。日本は押されに押され、本島に侵略してきて、四月のうちに大部分が盗られてしまった。


 本部は首里に構え、頑張っていたが、五月末には本島南端へまで下がった状態。

 揚陸してくる物資や、人員を止めなければ話にならない。

 俺は、祖国のために。少しでも役に立つため、敵船へと突っ込む。


 この頃には、抱える爆弾すら底をついていた。

 爆装していた奴らは、すでに逝ってしまっている。

 転がっていた練習機に乗り込み、エンジンを掛ける。

 俺は正規の航空隊ではない。


 だが、操縦できるため、志願をした。

 国のために。皆のために。自分のできる事は何でもやる。


 そうして、迫ってくる補給船へつ込んでいった。

 突っ込む目前、スローモーションのように、敵である奴らの顔が見えた。

 すまんな、一緒に逝ってくれ。




「ぐわっ」

 頭に衝撃を受けた。目を開けるが、体は動かさない。周囲の気配を探り、誰もいないのを確認する。

 そっと体を起こす。


「神野裕樹(かみのゆうき)君」

 はっ、しまった。すでに、背後をとられていたのか。

 俺としたことが、なんたること。


 俺を見下ろす先生は、黙って黒板を指さす。

「あれが見えるかね。美しいだろう。数学はね。人類の歴史と叡智がつまっているのだよ」

「人類のえっちの歴史?」

 つい反射的に、ぼけてしまった。

 それを聞いたクラスの連中に、クスクス笑いが広がっていく。


「良かろう。体にしみこむくらい。君には問題を解かせてあげよう。さあっ。うおっ」


 先生が驚いたのは、いきなり床が光ったから。

 見たことがあるような、ないような魔方陣が浮き上がってくる。


「はっ。しまった」

 あわてて、三列向こうの席まで机の上を走っていく。

 ガバッと抱きしめ。どさくさ紛れに告白をする。


「桐野美咲さん。好きです」

 すると彼女は、落ち着いた感じで答えをくれる。

「彼氏持ちだから、駄目って言ったよね。これで、なんかい……」


 そこまでで、意識を失った。



 抱き心地。良いよなぁ。



「はっ」

 目が覚める。

 まだ気持ちの良い、抱き心地が続いている。

 そうだよな。彼女を抱きしめた、ままだし。


 はっ。今なら胸を。きっと大丈夫?

 そっと体を離し、右手を。

「それを、どうするつもり? いい加減、セクハラで叫ぶわよ」

 ちっ。目が覚めたのか。


「わかったよ。怪我はないか?」

「うんまあ。大丈夫」

 

 ここまでしても許されるのは、幼馴染みだから。多分。

 家は隣。

 女子と一緒に居るのが、恥ずかしくなるお年頃。

 中学校になって、放って置いたら育っていた。


 それに気がつき、高校になって声かけたら…… すでに彼氏持ちだった。

 いやあ。泣いたよ。自分自身の若さ故の過ちを呪って。


 それは良いとして、周りを見ると、お決まりの石造りのホール。


 おっさん達が、周りをびっしりと囲み、気がついた先生がビビっているところ。


 異世界転移年表があれば、冒険の始まり。今ここと、矢印でも刺さっているだろう。


 きっとこれから、王様が出てきて、勇者様とか言い出すんだろうなあ。

 それとも、能力を調べる水晶とか石板か?


「司祭様。これはどういう事でしょうか?」

「分からん。文献では、召喚するのは一名のはず」

「一体何が?」

 なんだか、様子がおかしい。


 誰かが叫ぶ。

「何だよ此処。帰してくれよ」

「そうだよ」


 魔王でも倒せば帰れるとか?

 いい加減、自信が崩れたが。


 するとだ。さっき、司祭と呼ばれたおっさんが言うんだよ。

「馬鹿者。帰れるわけなどない。お前達が、どこから来たのかも知らんのだ。お前達は、これから神の使途として、国のために尽くすのじゃぁ」

 ほらっ。ええっ??


 ある程度、法則は守ってくれよ。

 言葉は分かるが、力はどうした。

 気になるから、聞いてみる。

「召喚されたら、特殊な能力があるとか?」

 そう聞くと、偉そうなおっさんは首をひねる。


「そんな事などあるものか。知らん」

 ぶった切られた。


 クラス全員プラス数学の先生。

 三七人。

 異世界に召喚され、残留決定。


 とりあえず、王様はここには居ない様子。


 お一人様召喚の部屋に、三七人はきつい。

 予定では、謁見の間という所へ向かう予定が、コロッと変わり。急遽舞踏会を開く広間へ向かうようだ。


 向こうもこっちも予定外。


 その時俺は、心の中でステータスオープンとかファイヤーとか色々詠唱を思いつく限り唱えていた。

 当然、何も起こらず。


 部屋へ入ると、偉そうなおっさんが待っていた。


 全員がぞろぞろとはいると、おっさんが話し始める。


「双方共に、予定が狂ってしまった。本来は、この中で一人のみ呼ぶ予定だったのだが。大人数。まあお前達は、寂しくなくて良かろう。こちらは予定外の出費が増えて大変だがな」

 そう言って、これでもかと、嫌そうな顔を此方に見せる。

 呼んでおいて、予定外だと、うだうだ言われてもね。


 あー。先生。言い返せ。

 少しは、常識と人との付き合いを覚えろと。

 すると、心の声が聞こえたのか、手を上げ、先生が何かを言うようだ。

「此処はどこで。私たち、本当に帰れないのでしょうか?」

 ヘタレだ。俺に言っていた文言は何だよ。


「あー良いか。事情はどうあれ、この事態を招いたのは其方の責任だ。何とかしろ」

 俺が声を上げ、そう言うと、周りの兵達の雰囲気が変わる。


 何だやるのか? とりあえず睨みかえす。

 人数は少し此方が多い。

 男女混合だが。

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