第6話 清水の舞台はないが
夕香に攻撃の指輪を作らせて、翌日森に連れて行く。
石鉛筆一ダース投げで、ジジが笑ってしまうほどあっさりリスが獲れた。
四匹目で敏捷が出る。
俺は森小牛に投石からの闘気弾でヘッドショット、笹穂槍を出す間が惜しいので投石器の石突で突き倒して仕留めた。
二匹目の森小牛を獲ったら、狂蹴鳥が来たので、首の付け根に闘気弾を当てて勢いを殺し、笹穂槍で横なぎに払うと首がすっ飛んだ。
一割でこれほど違うか。
胸を切り開いたら、暗い薄緑の技能玉があった。
「今日出るのかよ」
「文句を言うもんじゃねえだろ」
「そうだが、なんか、やだ」
「ガキかよ」
「十二だし」
「おめえが言うと嘘くせえ」
「つまんない事言ってないで、さっさと吸収しな。今日はもう帰るよ」
ウズラを意識して獲りながら帰ったのだが、東門の入り口でジジに言われた。
「職人のおめえが狂蹴鳥を相対で獲れるもんだから、芳莉がなんだか焦ってやがる。斬撃取れたのはあんまり自慢しねえでやってくれ」
「ああ、この頃妙に怒りっぽいとは思ってた」
黙っているのも変なので、夕飯前に叔母ちゃんに報告した。
ジジが夕香も敏捷を取れたのを言う。
「芳莉は礫打ちと投石器をしっかりやっとけ。敏捷と跳躍は取れら。斬撃と刺突の得物があるんだ、打撃は獲物ぶっ叩いて仕留めてりゃ、勝手に生える」
「うん」
「順を追ってやりゃ、お前はいくらでも強くなれるし、獲物も獲れる。焦るこたないんだよ」
ババが叔母ちゃんを抱きしめる。親のいない夕香には辛い絵面だと思ったので手を握ると、強く握り返された。
夕飯後は眠るまで縋りつかれた。
生まれる場所と親は選べないが、自分の子の親にはなれる。誰が言ったのか。
叔母ちゃんは憑き物が落ちたように大人しくなって、逆に怖い。
夕香の敏捷が機敏になるまでリスを獲らせたら、斬撃が二つ出た。
威力が上がるはずなので吸収する。
跳躍も出た。こっちは一つ。
防御を上げるために夕香にツタヘビを獲らせ、俺は打撃狙いで強蹴羚羊を獲っていると、狂蹴鳥が来て、斬撃を出す。
売り物になる爪を出しやがれ。
お陰で、羚羊の斬首が出来るようになった。
「次は、刺突か。一番弱いのは角ウサギなんだが、銀角ならやれるだろうが、鋼角だったらヤバい」
ウサギは敏捷性が野干より高く集団でいるので、今までは、ジジババも手を出さなかった。
投石で蹴散らして、逃げ遅れたのを一人で仕留めたら玉が出るかもしれない。
「東征に帰って一角牛を狩った方がいいか」
「ダメ! あたしが十三になるまではここにいるはず!」
叔母ちゃんが嫌がる。
「十二になるまでには帰って来るから。俺が十三になるかも知れんけど」
「二人は兵隊じゃあないか。お前に付きっ切りにはれないだろ」
ババも嫌がる。
七級なら夕香と二人でやれるって考えたのが、まずいか。ちょっと増長したかも。
「ここで七級獲れるのはジジババがいてくれるからだよな。銃を作れるように基礎能力を上げるためだから、刺突でなくてもいい」
「三つ持ってりゃ、職人でも強撃が生えるから、早目に揃えるに越した事はねえんだが。おめえがよけりゃ、北の山羊で持久取るか」
「それ、夕香も獲れるか」
「北にも森小牛はいる。跳躍取らせておめえが持久取った後くれえなら、ビビらなきゃ、銀角の槍でいけるだろうぜ」
「じゃあ、頼む。また引っ越しで悪いが」
「芳莉も同じにやるんだ。むしろ試してもらってるようなもんだ」
離れる前に市場を冷やかしておこうと言う事になった。
なぜか、叔母ちゃんとババが喜んでる。
俺も夕香も能力が上がっているので、なんか良い物が手に入るんじゃないかと。
結果から言うと、大儲け的な特別な収穫はなかった。能力が上がって使えるようになった武器はあったが、値段も適正だった。
六級のヘビ皮があったので買って、夕香と二人分の鎧を作った。
金で買える安全は買う。
夕香は銀の敏捷、防御、器用の指輪を見つけた。
器用が上がると、職人の製作技能だけでなく、命中率が上がる。
北門の神殿にも、セラミックナイフの納入を依頼された。
今のところ、あればあるだけ売れるそうだ。
神殿と討伐人用の安宿は近いのだが、合流が面倒なので、俺と夕香も安宿に泊まることにした。
北の森には野干もいるので、夕香には索敵も取らせる。
ツタヘビから取った防御、七級の革鎧に防御の指輪で、八級の野干では文字通り歯が立たない。
群れに囲まれても平気。
ジジババが跳躍の上の空蹴を持つ山羊を獲りたいと言って、少しでも敏捷を上げるためにリスを獲る。
二人とも機敏の上の鋭敏なのだけど、その上に俊敏がある。
敏捷性はそこまで上げなくても良いのだけど、やはり索敵で見つけると逃げられて獲れなかったのだそうだ。
アクティブレーダーだと、向こうに気付かれてしまうらしい。
その名も枝跳び山羊。モモンガ並みに木の枝の間を跳び回る。
跳躍力が高いのではなく、空中を数回蹴って移動出来る。
更にその上の、蹴る動作を繰り返して空中を移動出来る、空跳がある。
持久取れたら、次は俺も空蹴取りたい。
ジジババは石鉛筆半ダース攻撃で、リスを落とす。
夕香も射撃からの伸突で野干を瞬殺する。
俺だけもたもた、がっしりした頑丈山羊と格闘した。
持久出すんだから当然なんだけど、体力防御力がある上に動きが良い。
毛が斬撃に強いだけでなく、刺突も割と防ぐ。
毛長山羊と違って、七級だし。
夕香が跳躍を取れた翌日、俺も持久を取れたが、ジジババは空蹴を取れなかった。
山羊自体は獲れているのだが。
こっちを見ているのに気付いたら、別の獲物を狙う振りをして投石器を出し、礫を浴びせて闘気弾も撃ち、落ちたら伸突で攻撃、逃がさずに仕留める。
二人がリスを獲らなくなったので、俺と夕香が獲る。今の実力では山羊を落とせる気がしない。
「六十金か」
「なんだ、霊核買うのか」
「ああ、俺じゃ投石じゃ山羊を落とせそうにない。拳銃の六連射ならいけるんじゃないかと」
「金はあるのか」
「自分でも驚いてるんだが、ジジババのお陰で溜まってる。ここで使えば、先が更に楽になるように思う」
「なら使っちまえ。銀はあるんだな」
「二枡溜まってる。でも、降星に行って収納させて貰って作れないと嫌だから、ジジババが空跳獲るまではリスと森小牛獲ってる」
「そりゃ、好きにしろ」
二人分出るまでに二ヶ月掛かった。流石にファンタジー的な技能になると出現確率がしょぼい。
俺が降星に行っている間は、今まで獲れなかった七級の森猫獲って暮らすそうだ。
降星の神殿に連絡してもらうと、拳銃の収納許可は即座に下りた。
神殿に着くと、神官長様に出迎えられた。
夕香は別室で待たされ、俺だけ直ぐに奥に通される。
「こちらが、小型の拳銃です。両方収納なさってもかまいません」
「はい、有難う御座います」
ライトニングは銀二口半(二百五十グラム)、モデル2は一口半(百五十グラム)で出来る。
モデル2はちょっと見た目が頼りないので、ライトニングにする。
複製しようと思っただけで、材料が動いて、白銀の銃が出来上がった。
三つの銃を出して、神官長様に見せる。
「有難う御座いました。銃複製の技能も習得出来ました。製作になるまで、何度かお世話になると思います。宜しくお願い致します」
「はい、どうぞ、何時でもお越し下さい」
神官長様は何か言いたそうだったけど、こちらから話さないなら聞かないつもりのようだ。
白銀の銃を夕香に見せてから、目立ち過ぎるのでいぶし銀にした。
素材の強度に影響を与えずに少し色を変えるのも、職人の技能で出来る。
郭の外で試射をした。全くリコイルはなく、ウォン、くらいの音が出るだけ。
一撃は野干の体当たり程度らしいが、速射で六発同じ場所に叩き込めば、一対一ならかなり有利になりそう。
再充填は普通に武器に霊気を流すのと同じ。
夕香にやらせたら、やたら嬉しそうにバカバカ撃つ。
女に銃、男に金を渡しちゃいけない、とかあったな。
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