第5話 確実に一歩ずつ、と思ったのだけど
討伐人用の安宿は充実しているので、ジジババと叔母ちゃんの住処は直ぐに決まった。
俺と夕香は、セラミックナイフを定期的に卸す事で、治安の良い神殿の安宿を使わせてもらう。
昼間は叔母ちゃんも神殿で勉強と訓練をする。勉強しろよ。
対狂蹴鳥用に新兵器を作った。肩に担ぐほどのお玉である。
これに拳より少し小さい礫を幾つも入れて、打ち出す。
これも人間同士の大規模戦闘がないためか、闘気弾を撃てる所為か誰でも思い付きそうなのにない道具だ。
ジジババに見せる。
「なんだ、そりゃ」
「投石器」
「また御大層な名前だな」
実演して見せると、ちょっと貸せという。ガキ大将か。
礫は作るのがめんどくさいので、その辺の石を入れさせた。
ジジが使うと結構な威力で、ババも自分用を作れと言う。
適当な枝をぶった切って渡される。俺の分もよこせよ。
イメージが固まっていれば、粘土細工のように作れる。
諸々の準備を整えて東側の森に入った。
ジジババは若い頃に、斬撃強化のために狂蹴鳥を狩っているので、いそうな場所も知っている。
途中でキハダトカゲとツタヘビを二匹ずつ獲って、生活費を確保。
いよいよ地上性の七級の生息域に入った。
気を付けなければいけないのは、豹サイズになった森猫とサルの群れ。
どんな魔物も気の動きを見て攻撃を避けようとするので、サルは三人で投石すれば追い散らせるそうだ。
地上は狂蹴鳥の天下で、防御力の高い毛長山羊や、蹴りが強打になる羚羊もいる。
狂蹴鳥は凶暴で強い上に、不利になれば枝伝いに飛んで逃げ、倒しても可食部分が少ない。
自分の食料になる山羊や羚羊を襲う者は許さないので、集団で狩りをする地上性の魔物はいない。
「たまに逸れ狼が来るんだが、一匹なら獲物だ」
中層で大型の魔獣の狩りに失敗して群れが散り散りになって、浅層に逃げて来るのがいるらしい。
事前にされていた注意の再確認もして、樹上の索敵は二人に任せて、全体が大きなシダ類で覆われている地上を探った。
来ないで来ないで、みたいな感じでこっちを見ているのがいる。
「ウズラより大きいのがいる」
「どこだ」
俺が指し示した処にジジが投石すると、ガゼルくらいの鹿っぽいのが跳ね、ババに撃ち殺された。
「森小牛だ。こいつも跳躍出すんだが、射撃ねえと逃げられるな」
「そんなのばっかだ」
「こいつは小心者で俺らの索敵にゃかからねえ。獲れりゃこれだけで暮らせる」
叔母ちゃんが強撃と射撃を授かったら、順調に育成出来るな。
収納したババが戻って来た。
「お貴族様の履物が出来るよ」
作れってか。
ジジババは討伐用には、五級革の甲革の厚い戦闘サンダルを履いている。
さらに二匹森小牛を獲ったところで、強烈な殺意を感じた。
「来る!」
胸くらいのシダ類の中を何かが高速で接近して来る。
投石を盛って、殺意に向かって振ると、下草の中から嘴の付いたトカゲ頭が起き上がった。
石鉛筆一ダースを両手で交互に投げ付けてから笹穂槍を出し、真っすぐ行くと見せかけて、左に跳んで斬り上げた。
丈夫一点張りのツタヘビの首も斬れるようになった俺の一撃は、見事に狂蹴鳥の斬首に成功したのだけど、頭のない胴体が走って行って木にぶつかり、倒れてもジタバタしている。ホラーである。
落ちた首を探して頭を潰すと、体も動かなくなる。
魔物は大概、脳が死ぬと体も死ぬ。
まれにヘッドショットがうまく決まり過ぎると、少しの間体がじたばたしていることがある。
人間の大人より重い体を収納した。
「ああ、そうかよ」
「どうした」
「爪に斬撃が入ってる」
「まあ、ねえよりましだ」
今日はここまでにしといてやって帰った。
微妙な気分の俺以外は、森小牛の皮と肉の話題で盛り上がった。
「時化たツラしてんじゃねえ、一匹目で
「おう、そうか」
「今日の猟が続くなら金は儲かるぜ。五級買っちまうのも手だ」
「いくらするんだ」
「一つ十金だな」
「まあ、斬撃取れてから考える」
斬撃の小刀がまた出来た翌日、叔母ちゃんが十一歳になったので上げた。
攻撃系の技能を授かれば、斬撃は何かを斬殺していれば生えてくるのだが。
結局、夕香が十二歳になる前には斬撃は取れなかった。斬撃の小刀はもう一本出来たので、俺用。
物欲レーダー仕事し過ぎ。過労死しやがれ。
無事に錬成宝飾と鑑定を授かった夕香に、溜まっていた鉱石と宝石らしき物を渡した。
ちょっと多いので、森に連れて行かずに製錬させた。
順調にふつうの狩りを済ませて帰って来ると、抱き付かれる。
「ほとんど鉄と銅、錫だったけど、指輪十個分銀もあったよ。なんか強化の指輪持ってない?」
「ジジババ持ってないか」
「武人はそんなのに頼るなって親に言われて育ったんで、持ってねえ。明日は市場に行ったらどうだ。鑑定がありゃ、掘り出しもんもめっかるんじゃないか」
「収納しないと鑑定は出来ないが、素人よりは目が利くか」
ババも賛成する。
「たまにゃそっちに遊びに行ってもいいやね。芳莉も行くだろ」
「行くに決まってるよ。言わなきゃ一人だけ置いてかれたのか」
無駄に叔母ちゃんが不機嫌になった。
今のはババは悪くないと思うんだがな。反抗期か?
異世界のバザールは結構危ない。金は収納に入れるが、盗れそうな装身具どころか、護身用の小型の武器まで掏ってく奴なんかがいる。
武器がぶつからないように左側通行が基本で、逆走してぶつかって来たら斬ってもいい。
買い物をするのは俺と夕香なので、俺の左に夕香、ババの左に叔母ちゃん、殿がジジの隊列で歩く。
識別がいい具合に育っているようで、武器防具はなんとなく良さそうなのが判った。
ちゃんとした店は相応の値段が付いているが、屋台だと店主が価値を判らずに売っている物がある。
一指半の骨色の柄に三指の薄灰色の円錐が付いた、手槍が気になった。
「飾り物、か」
「いや、銀角ウサギの角だぜ」
本物なら柄は頭蓋骨で、二腕ほど気が穂先から延びる。
「それが金二枚は安くないか。相場は十枚だろ」
「まともな店ならそうだがな、ここでその値を付けて売れるか」
「そうだな、しかし、金二枚か」
「いくらなら買う」
「一枚半だな」
「持ってるなら出しな」
「おう。売買証明をくれ」
盗品の可能性もある。売買証明があれば、出店を許した側の責任になる。
あっさり金と売買証明が交換され、俺は手槍を収納する。
「どっから持って来たんだ」
「借金の形だ」
「成程。少しでも金になればいいか。なんで鑑定しなかった」
「めんどくせし、金掛かるし」
「ちょっと色が悪いから、偽物だと思ってたんじゃないか。鋼角ウサギの角だったぞ」
「ちょ、嘘だろ」
鋼角ウサギは銀角ウサギのレア種で、角から闘気弾を撃って来る。
銀角のつもりで間合いを取ると、撃ち殺される。
金一枚半で遠距離攻撃が手に入ってしまった。三十万円とすると、安くもないか。
唖然とする店主に売買証明を見せて、颯爽と去る。我ながらやなガキだな。
夕香には、技能を授かったばかりなので、無理に何か買う必要はないと言っておいたのだけど、欲しいと思った指輪を買ったら、攻撃力が一割増になる「攻撃の指輪」だった。
強撃持ちが装備すると、掛け算になって1.43倍になる。
あとで全員分複製してもらう。
装身具で能力の嵩増しをしても、それを自分の実力だと思わなきゃいいそうだ。
道の反対側を冷やかして戻る途中に、薄汚れた銀角ウサギの角が、金三枚で売っていた。
反対側じゃ二金だったとジジが難癖を付け、二金で買い取った。
手入れしてないので汚れていただけだった。
直接刺して手を放してしまい、霊気が流れずに魔物製の武器が汚れると、拭いても取れない。
収納の中で気を流して汚れを取る。刀を研ぎに出すようなもの。
普通はそれなりの武器職人じゃないと知らない知識だが、俺はセラミックナイフと森小牛の納入で、神殿関係者に特別講義を受けている。
真っ白の白銀色になった角を店主に見せてやった。
「持ってたの出したんじゃねえの?」
そう言いたいのは判るが。
夕飯は市場の近くの店で済ませた。旨くも不味くもない、文句の言いようがない微妙な味だった。
食事は兎も角、面白いので時々来ようかと言いながら帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます