第76話 正義の英雄アルフレド
僕ら三人は彼女を中心に、暗い森を並んで歩く。
もしも世界が
「そういえば、エレナは――お母さんは、どうしてるの?」
「母さんは去年、病気で……。だからわたしも家に戻って、農園で父さんの
「おいおい。僕は、まだ
そうか――。
僕が愛したエレナは、すでにいなくなってしまったのか。
「わたしが盗賊団に入ったあとも、母さんが野菜を送ってくれて。……みんな喜んでたなぁ。団長だけは『ハッ! 盗賊が
「母さんは、誰よりも
どうやらエレナは
*
ファスティアとアインスに守られながら、最初の〝はじまりの遺跡〟を目指して進む。僕らは人目を避けるため、足場の悪い森の獣道を通り抜ける必要がある。魔物は断続的に
そして、ついに僕らの目の前に、見覚えのある
「暗いな……。アレフさんたちは居ないのかな?」
「もう〝旅人〟が来ることもないからね。かなり前に、大神殿に戻っていったよ」
いつもは
「それじゃ行くねっ。――わたしは向こうを!」
まずは遺跡の周囲の魔物を掃討すべく、ファスティアとアインスが群れの中へと突撃する。ファスティアは風の魔法を織り交ぜた、流れるような剣技で次々と敵を斬り払い、アインスは農具を
「使い慣れた道具の方が、戦いやすくってね――!」
アインスは
「こっちも片づいたよ! 父さんたち、いまのウチに!」
ファスティアからの合図に従い、僕とアインスも遺跡の中に走る。内部は暗闇に包まれており、僕らは
*
「そんな、すっかり荒れ果てて……。
「時々片付けてはいるんだけど。人が住まないと、
足元に散らばる
あの
「祭壇って、
ファスティアの指す方向へと視線を
「アインスは? 祭壇の
「いや、僕にも〝何もない〟ように見える。僕は
僕らは周囲への警戒を強めながら、静かに祭壇へと近づいてゆく。そして僕は
その瞬間、僕の
《サイト・アルファ。認証完了。デバッグルームへの進入は許可されません》
これは残り三つの認証を獲得し、デバッグルームとやらへの〝鍵〟を解除しろということか。――つまり、
そして、この
「わっ、いきなり光った!? よくわからないけど、成功したってことでいいの?」
「うん、多分ね。ありがとう、二人のお陰で助かったよ」
正直なところ、僕ひとりでは、
「それは――。だって僕は、
「だってわたしは、父さんの娘だから」
アインスとファスティアは口を
「でも、
「ああ、ミルポルさんから聞いてる。もちろん覚悟の上だよ。だって僕は、ね?」
僕はアインスでもあり、アインスは僕でもある。それは
「わたしも。だって、この世界が大好きだから。それに、父さんにも会えたし!」
ファスティアは長い黒髪を
「巻き込んでしまって……。本当に申し訳ない。ありがとう、ファスティア」
「もー。いいからっ! ほら、次の場所に行くんでしょ? 一緒に行こっ!」
彼女は再び僕の腕にしがみ付き、
「僕は
アインスは祭壇に手を触れながら、僕と娘に
ここはアインスの提案が正しい。この場の見張りを彼に任せ、僕とファスティアは、次の〝はじまりの遺跡〟のある、ネーデルタールへ向かうことにする。
「どうか気をつけて。この世界のこと、頼んだよ」
「アインス……。ありがとう」
元は〝ひとつ〟だったのだ。もはや言葉は必要ない。――そして僕らはアインスと別れ、ファスティアの
*
風の結界に包まれながら、
「魔物がこんなに……。冒険者の皆が頑張ってくれてるけど……」
ファスティアの話によると、冒険者とは、
僕の隣で
やがて僕らは広大な森を抜け、
「まだ日中だったのか……。ありがとうファスティア。ここで充分だよ」
僕の声に反応し、ファスティアが結界の速度を落とす。
「いいの? だって父さんは戦えないし……」
「大丈夫さ。ここは明るいし、いざとなったらどうにでもしてみせる。それよりも、
「あっ……。気づいてたんだ」
ファスティアは完全に結界を停止させ、
「父さん……! わたし、絶対に消えないから……! だから、忘れないで……」
「ああ。愛するファスティアのことは、絶対に忘れない。それに君が世界を愛したように、世界も君を愛している。――忘れたりなんか、するもんか」
僕はファスティアの涙を
「父さん。
「僕もだよ、ファスティア。――それじゃあ、お互いに頑張ろう」
最後に軽いハイタッチを交わし、僕は娘に別れを告げる。そしてファスティアは
「最高の
僕はゴワついた労働服の
*
かつて〝アルフレド〟として訪れた頃とは打って変わり、森の中には魔物や
この辺りの魔物は討伐されたのか、それとも
「たしか、こっちの方向に。……そう、この道に
以前に聞いた道案内を思い出し、僕は〝祭壇〟のある場所へと向かう。確かネーデルタールの〝遺跡〟は
とはいえ、二十数年もの間、魔物に荒らされていないとも考えがたい。僕は
すると僕の不安が的中したのか、前方の茂みから、剣を手にしたハイコボルドが飛び出してきた。あまり強い魔物ではないが、今の僕の手には負えない。
「くっ……!? 見つかった!?」
「ハッハッハ! 来たぞ! ついに時がやって来たぞ! とうッ!」
その時。
「間に合ったようだな! もう大丈夫だ! この
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます