幕間:最後の侵入者
第74話 永遠なる旅立ち
異世界ミストリアスへの六度にわたる
全接続によって、無事に〝僕自身〟をミストリアスへと転移させられるのか否かは不安の残るところではあるが、こればかりは自らの身で試してみる以外にない。
「それにしても、頭が痛い……。まずは接続器のスイッチを――」
すでに本日の掘削義務の時間が迫りつつあるが、今日に限って〝大きな事故〟に出くわさないとも限らない。僕は続けて最後の
「えっ……! ディスクが無い!? そんな! いま取り外したばかりなのに……!」
なんと接続器の内部にあるはずの、ミストリアンクエストのディスクが無くなってしまっている。この
「誰が――違う、
そもそも、最後にディスクを確認したのは
「最下級労働者、ID:XY01B-AC00D3-TYPE-W10-NIJP000015-0C520A-H。速やかに労働へ向かってください。世界統一政府は、規律ある行動を求めています」
全自動ベッドから、労働時間を知らせるアラームが流れはじめる。これ以上は考えていても仕方がない。このまま〝ディスクなし〟での
僕は意を決し、接続器内部のスイッチを〝全接続〟へと切り替える。そして
その時――。いきなり僕の居住室の扉が開き、真っ白な軍服を着込んだ、少年姿の監督官が姿をみせた。そして彼は真っ直ぐに、冷徹な視線を僕へ向ける。
「監督官どの……。申し訳ございません。ただちに出勤いたします」
まさか、いきなり扉を開けられてしまうとは。徹底管理された
「ID:XY01B-AC00D3-TYPE-W10-NIJP000015-0C520A-H。出勤は必要ない。政府より、貴様への終了命令が下された。荷物を持って出ろ。廃棄居住区へ移送する」
監督官は職員専用の大型端末に表示された、世界統一政府からの命令書を僕に見せる。そこには〝終了方法・
「光栄に思え。貴様の死は、世界のために活用される。――行くぞ」
言い終えた監督官は端末を僕のベッドの上へと投げ、その場でくるりと
*
死した大地の体内を、監督官に続いて歩く。相変わらず頭痛は酷く、視界には〝黒い線〟のようなノイズや、英数字らしきものまで浮かび上がって見える。
「
「えっ? あっ……! しっ、失礼いたしました! 監督官どの」
前方を行く監督官の言葉が理解できず、僕は不用意にも間抜けな返答をしてしまう。ここは
「理解できんか。ならば〝神の眼〟と言えば伝わるか?」
本当に理解が追いつかない。なぜ監督官の口から〝神の眼〟という言葉が出てくるのだろう。それに彼の口ぶりからは、あたかも僕が
「なぜそれを……。その、ご存知なのですか?」
「質問をしているのは私だ。――まあいい。最後に教えてやろう。すでに貴様の
僕ら〝人間〟の肉体において、
「貴様を検体として提出すれば、愚かな上官どもは大いに喜ぶであろう。しかし私は忠実なる
後ろ手に両手を組みながら、前をゆく監督官が砂の上に
「どうやら気づいていなかったようだな。それに貴様の
「まさか……! あのディスクが!?」
僕の言葉には反応せず、監督官は両腕を広げて高らかに笑いはじめる。彼の表情は見えないが、声には狂気と歓喜の感情が込められているのがわかる。
「ハッハッハ! 待望の〝メシア〟が、まさか〝
彼は何を言っている?
「フッ、もはや貴様には関係のないことだ。これから去りゆく貴様にはな。――どういう仕掛けだかは知らんが、貴様の
「それが……。いったい……」
「
監督官の言葉を要約するに、どうやら僕の肉体は〝すべてがナノマシン〟と化してしまったらしく、その状態の僕こそが、彼の言う〝
それでは、これまでの頭痛や不調は、変性の
いずれにしても、監督官の言うとおり、もはや僕には関係ない。それに、本当に〝ディスク〟が僕の脳内にあるならば、最後の
*
その後は
壁や天井には大小様々な円形の穴が
「馬鹿め。さっそく釣られたか」
監督官は足を止め、
すると周囲の〝穴〟から、茶色い触手のような〝根〟の群れが伸びてきた。意思を持った根は数本が寄り集まり、あたかも槍の束のごとく、監督官へと
「草ふぜいが。人類を
監督官は根に向かって右手をかざし、なにやら不明な
やがて〝根〟は黒煙を噴き出しながら
「あの〝根〟を一瞬で……。お見事です、監督官どの」
「当然だ。私は貴様ら
そこで彼は言葉を切り、ゆっくりとこちらを振り返る。
「たしか貴様は単独で、
振り返った監督官の両眼からは、真っ赤な液体が流れ出している。見たところ、さきほどの〝根〟との戦いで、彼が負傷した様子は確認できなかったのだが。
「フン。欠陥品というやつだ。すでに
監督官は廊下に並ぶ部屋の一室へと進み、僕に室内へ入るよう
「だが、
部屋に入った僕の尻を、監督官が蹴り飛ばす。僕は前方へと
「ここで貴様の命は間違いなく終わる。――そうだな?
もはや疑う余地はない。この監督官は、僕を手助けをしようとしてくれている。彼はライトの白光を背負いながら、軍服から〝なにか〟を取り出した。
「誰が貴様に、物資を届けていたと思っている? さあ、
投げ渡されたケースを
その時、監督官のいる廊下の方から、敵の襲来を知らせる
「
「監督官どの。……ありがとうございます……」
まさに
僕は急いで接続器を装着し、埃まみれのベッドで
「
起動の
そして僕の意識は白き海の中へと沈み、見慣れた空間へと
*
「ようこそ、ミストリアンクエストの世界へ」
聞き慣れたミストリアの無機質な声。ここでの行動は〝財団〟によって監視されていると思って間違いない。不用意な会話は避けた方がいいだろう。
まずはミストリアスへの侵入手続きを進め、〝名前登録〟の手順まで
「それでは、あなたの情報を登録いたします。八文字以内で名前を決めてください」
ついに〝
それを僕が口にした
不意に周囲の〝白〟が、一面の〝黒〟へと変化した。
これまでには経験したことのないような、まるで〝無の空間〟へと落ちてゆく感覚。下方向への加速度と共に、全身を引きちぎられるような痛みが襲ってくる。
「僕は……。
これがマパリタの言っていた〝
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