第63話 グッドエンドは未来へ遠く
魔王に
その瞬間、凄まじいほどの閃光が弾け、周囲の〝闇〟と
そして空間の
「よし、
一瞬の静寂を打ち破るように、僕の背後でアルトリウス王子の大声が響く。
気づけば周囲の景色は元の〝王の間〟へと戻っており、烙印の奥には
「あはは、さすがですね。ようやく最後の扉が開いたと思ったら、すでに終わったあとだったとは。――では、もしかすると
「ええ。魔王の烙印です」
僕は再び玉座の方を振り返り、魔王の烙印へと視線を戻す。大きさは約一メートル四方といったところだろうか。闇色の光を放つ
《さあ、最後の仕上げだぞ! 聖なる光で闇を消し去り、悪しき因果を打ち砕け!》
再び
僕は空中で停止している〝烙印〟を正面に
――が、僕は剣を振り下ろすこともなく、静かに右腕を下ろしてしまった。
「すみません。やっぱり僕には、
そう言った僕の背後から、小さな
「アインスよ。魔王の烙印を滅せねば、いずれ魔王は再臨しよう。
「はい。わかっています。……でも、やっぱり信じたいんです。彼ら二人と、この世界の人々と、そして僕自身を」
僕は〝烙印〟をじっと見つめたまま、エピファネスの声に答える。
「へっ……。へへっ、そうか! いいぜ、俺は賛成だ!」
「ふっ。まさかこうなるとはな。――いいだろう。オレも
先陣を切ったドレッドの言葉に続き、カイゼルも賛同の意思を示す。そして再度の
「わかりました。私もアインスさんを――。勇者の言葉を信じましょう」
「……ふむ。致し方あるまい。だがアインスよ、当然ながら策はあるのだな?」
「はい。もちろんです」
あの魔王の肉体はリーランドのものだったが、確かにヴァルナスの意識や記憶も
それに、ここで彼らを消滅させてしまいたくはない。僕の目的は〝世界のすべて〟を救うこと。その中には当然ながら、彼ら二人の戦友も入っている。
背後を振り返ってみると、その場の全員が僕に真剣な眼差しを向けていた。そして彼らは一様に、
「ありがとうございます」
僕は〝烙印〟へと向き直り、静かに
「うっ……。グッ……!」
憎悪、怒り、悲しみ、嘆き、そして救いきれぬほどの大きな絶望。頭に流れ込む負の感情に押しつぶされそうになりながらも、僕は
*
「だ……、大丈夫ですか? アインスさん」
「ええ、なんとか。……はは、どうにか上手くやれそうです」
僕は額を押さえながら、振り返って笑みを返す。アルトリウス王子は
「よし、皆の者! 勇者アインスによって、無事に魔王は討ち取られた! しかし、すべての戦いが終わったわけではない! 残存する魔王軍を掃討し、魔物どもの手からガルマニアとネーデルタールを奪還する!――ただちに出撃準備に移れ!」
「ハッ!」
アルトリウス王子の号令に従い、連合軍の兵士らが
「これで……、よろしかったのですね?」
「はい。僕には最後の仕事があります。――
「わかりました。……ありがとうございました、アインスさん」
僕にアルティリア式の敬礼をし、アルトリウス王子が退出する。続いてエピファネスも小さく頷き、彼に続いて王の間から去っていった。
「んじゃ、俺らも行くとすっかぁ! アインス。あいつらのこと、頼んだぜ?」
「任せてください」
「ふっ、また会おう」
カイゼルとドレッドは各自の祖国の敬礼をし、その場でくるりと
一人残された僕はバルドリオンを構え、何もない空間へ向かって思いきり振り下ろす。すると白い太刀筋が空間に刻まれ、目の前に
僕は額を押さえたまま、ふらつく足で真っ白な渦へと飛び込む。そして短い異空間を抜けたあと、目の前には
*
原初の地。ダム・ア・ブイ。この小さな島そのものが〝大いなる闇〟へと繋がっており、ここがミストリアスに生まれた最初の大地でもある。
そんな〝はじまりの大地〟にて、ついに
〝
まずは
《勇者の力は永久不滅だ! また会おう、新たなる勇者よ!》
少々うるさい相棒ではあったが。勝手に思考を読み取ってくるだけのことはあり、彼は僕の行動に対して、常に最善を尽くしてくれた。
《君の熱い思いは充分に伝わったぞ!――だから
バルドリオンに背を向けながら、僕は小さく口元を上げる。さあ、これでいよいよ最後。あとは現実世界で眠る肉体が、この〝死の痛み〟に耐えられるかどうか――。
僕は
「お待たせしました。ヴァルナスさん、リーランドさん。今から僕も、この〝烙印〟の一部になります。――ここで共に語らいながら、静かな眠りに就きましょう」
足元の
おそらく〝
覚悟を決めた僕は静かに目を
――しかし僕の意志に反し、
「駄目だ」
僕の口から自然と言葉が
「君を危険には
友人に別れの
これは僕の意志ではない――。そう感じ取った瞬間、僕の意識が不思議な浮遊感と共に上昇し、視界が白い霧に包まれはじめた。
「まだ君には成すべきことがある。君だけにしか出来ないことが」
アインスがオーロラに彩られた空を、
「――さようなら。
そう言ってアインスが小さく手を振った
そして視界が元に戻った時――。
僕の眼には現実世界の、見慣れた天井が映っていた。
勇者ルート:希望/果たされた約束 【終わり】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます